# [[🎮️『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』]]レビュー
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**一粒で二度愛おしい**
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## あらすじ
主人公・**蛍野春樹**はいわゆる[[男の娘]]。
ファッションデザイナーの姉である**千鶴**の専属モデル・**春日蛍**として女装をしている。決して自ら進んで女装をしているわけではないが、生活のためには致し方なしというスタンスだ。
家族でフランスに移り住んでいた春樹と千鶴は5年ぶりに日本に帰ってくる。
春樹としては初恋の相手である大財閥のお嬢様・**楠清佳**との再会を心待ちにしながら。
当時、清佳とは蛍としての姿でしか接したことがなかった。だから今度は春樹として清佳と再会し、あらためて関係を育むつもりでいた。
それなのに、突然に訪れた清佳との再会を蛍の姿で果たしてしまう。
感極まった清佳はその場でキスをし、「私と結婚しましょう」と蛍に告げたのであった。
## 秀逸なタイトルが表すジャンル
本作、まずもってタイトルが素晴らしい。
**僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。**。この一文で本作の肝心な部分の状況説明が完結しており、なおかつ「僕の好きな人の好きな人」という曲がりくねった主語が状況のこじれ具合を見事に表している。
そんなわけで物語ジャンルとしては==女装主人公モノと幼馴染再会物語のミックス==と言えるだろう。
ポイントは、幼馴染であるヒロインが、かつて交流していた主人公が女装であったということに今でも気づいていないという点だ。
女装主人公の肝のひとつは、女装であることがヒロインにバレるかバレないか、というところにある種のサスペンスを生じさせるところにある。
本作で春樹は、蛍は自分の女装した姿であると清佳に打ち明けたい。なのに、清佳が蛍のことを本気で愛していることを知り、しかも蛍は春樹のことを好いていると勘違い(=恋のライバル認定)までされてしまい、言うに言えなくなってしまう。
だから当面は蛍として接しながら、春樹として振り向かせようと奔走する、というこじれた[[ラブコメディ]]が展開される。
>[!cite]
> ![[『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』千鶴.webp]]
> 引用:[[🎮️『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』]]より
>
> ずいぶんと他人事のように言ってくれているが、本作で話がこじれる原因のだいたいはグータラテキトーな千鶴に問題があったような気も……。
## ちいさなラブコメディ
ミドルプライスである本作は攻略対象ヒロインが三人。それもメインヒロインである清佳によりボリュームが割かれており、残り二人の攻略対象である実姉の千鶴、清佳のメイドである**藤堂愛**はサブヒロイン的なポジションであると言える。
しかもお話の主眼は「春樹が清佳に好かれようと奔走する」ところに置かれており、物語のスケールは極めてミニマルだ。実際、主人公を含めた4人以外の人物に立ち絵はなく、モブキャラはほとんど登場しない。
彼ら4人の恋心に焦点をしぼった[[ラブコメディ]]だ。
ほぼほぼ4人しか存在しない以上、その関係性も狭い。
幼少から一緒に生活していた清佳と愛。一方の春樹と千鶴。彼らはそれぞれ似通った共通点がある。
例えば愛ルートで、メイドである愛は主人である清佳の好きな人である蛍=春樹のことを好きになってはいけない、と頑固になってしまう様が描かれる。この「頑固さ」は清佳にも見られるもので、ふたりの性格の近さを感じさせる。
千鶴は春樹と家族らしく同じような口癖がぽろりと発せられることがあり、また千鶴ルートでは春樹の女装に当たるようなとある秘密を内心抱えていることが描かれる。
ゲームの構成上、清佳ルートを幹とした[[途中下車方式]]で、基本的には愛ルート、千鶴ルート、そして清佳ルートという順に攻略していく。
その流れで、愛ルートを攻略すると自然と清佳のことが、千鶴ルートを攻略すると自然と春樹のことがより理解できるようにも作られている。
本作のメインは質量ともに清佳ルートにあることは間違いないが、そのメインを盛り上げる機能をサブである他ヒロインのルートも果たしており、なかなか抜け目がない。
>[!cite]
> ![[『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』愛.webp]]
> 引用:[[🎮️『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』]]より
>
> 「ちいさなラブコメディ」ではあるが、身体の小さな毒舌メイドの愛のルートはボリュームも小さくて残念。
## 「男らしさ」という幻想
春樹はことあるごとに「男らしさ」について言及する。中性的な顔立ちで蛍という一面も持つ彼は、「男らしさ」を身につけることによって清佳の心を射止めようとするのだ。
だけど清佳は蛍にベタ惚れ。だから「男らしさ」を身につけることは、春樹として清佳と結ばれるという目的からは遠ざかる行為のようにも思える。
そもそも、清佳に惚れられるために必要な「男らしさ」とは一体なんなのか?
それは、一人称を「俺」に改め、口調をそれらしくすることなのだろうか?
いや、そうではない。清佳が蛍を、そして最終的には春樹を好きになる過程や理由に、「男らしさ」という今や古めかしくなった言葉の裏に隠れた本当に大切なことがある。
本作のストーリーの一番の見どころは他の女装主人公モノの例に漏れず、やはり清佳ルートにおける春樹=蛍という秘密の暴露をめぐる一連の流れだろう。
少々ぼやかして語ると、ここで清佳が陥る混乱とその末にとある納得へと至る姿に、私は意表を突かれた。 そこで男だから/女だからという枠組みを飛び越えてみせる清佳に、==今、女装主人公モノが語れること==が確かにあると感心してしまったのだ。
>[!cite]
> ![[『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』清佳.webp]]
> 引用:[[🎮️『僕の好きな人の好きな人は、女装した僕でした。』]]より
>
> 「純粋で、考えなしで、とっても我が儘な」清佳が見せる暴走は、春樹が抱いていた「男らしさ」という幻想を見事に打ち砕いてくれる。
## 総括
言うまでもないことだが、女装主人公モノは主人公が一番可愛くないとお話にならない(?)。
蛍はもちろんのこと、「男らしさ」の幻想に囚われて独り相撲する春樹の時点ですでにかわいいので、この点は楽々クリアしている。これをひとりで演じた[[餅梨あむ]]さんの貢献も大きいだろう。
ミドルプライス相応の小粒な作品ではあるが女装主人公[[ラブコメディ]]の秀作である。
女装主人公のふたつの姿に応じて対応を変えるヒロインたちは、コミカルであると同時に二面性が顕になることによる[[ギャップ萌え]]も生じる。同じく[[泰良則充]]さんがシナリオを務めた[[🎮️『きゃらぶれーしょん! ~乙女は恋してキャラぶれる~』]]ではこのコンセプトを突き詰めた一作であったが、その面白さは本作でも健在だった。特に清佳のキャラクターがお好みだった方はこちらもオススメしたい。
>[!info]
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