# [[🎮️『鏖殺ノ乙女.』]]ネタバレなしレビュー ![[レーティング#^r-18]] **WINNER WINNER CHICKEN DINNER! (勝った!勝った!夕飯は親子丼だ!!)** ^Catchphrase ![[『鏖殺ノ乙女.』タイトル画面.webp]] >[!info]+ > ![[🎮️『鏖殺ノ乙女.』#概要]] > ![[🎮️『鏖殺ノ乙女.』#主要スタッフ]] ## あらすじ **星杜トワ**は復讐者。 人類を救う物質、**エネルギーコア**の発見者である母を裏切り、愛する妹共々死に追いやった<ruby>暁宮<rt>あかつきのみや</rt></ruby>家への復讐に燃える。 **暁宮エリス**は救星主。 **復光学園**の**星徒会長**として、そして母から継承した最強の**マジカルハート**の所有者として、救星のために日々鍛錬を積む。 エネルギーコアと表現するとなんともSFな響きがするが、マジカルハートと表現するとやっぱりファンタジーな響きがする。どうしてこのようなチグハグな用語が並ぶのか。 作品世界の時系列を簡単にまとめよう。 **天人**という外的の攻撃にさらされた世界。はじめに星杜トワの母がエネルギーコアという強大な力を持つ宝石を発見する。人類はエネルギーコアの力を利用して天人への対抗を始める。 しかし、エリスの母である**暁宮カオル**がその手柄を奪い取る。カオルは星杜一族の記録を抹消し、エネルギーコアに当たる宝石はカオルが発明したマジカルハートである、という偽りの歴史を流布する。 復光学園もまた、カオルがトワの母から奪い取ったものだ。マジカルハートの適合者を見つけるために各地から優秀な女学生を集めた全寮制の学園であり、ここを卒業した星徒たちは**星の花嫁**となり天人と戦う。 特に最強のマジカルハートである**ムーンストーン**の所有者であるエリスは卒業に際して5つすべてのマジカルハートをその手に収め、<ruby>救星主<rt>メシア</rt></ruby>となることが期待されている。 >[!cite] > ![[『鏖殺ノ乙女.』宝石姫.webp]] > 引用:[[🎮️『鏖殺ノ乙女.』]]より > > マジカルハートを所有する選ばれし乙女たちは**宝石姫**に変身し、天人に対抗できる存在となる。そんな、終末SFを変身戦闘少女の皮で覆ったような世界観が特徴的な作品だ。 分かりやすさのため、以降は暁宮家史観による用語で記す。 ## バトルロイヤル 「**鏖**」。漢検一級出題範囲の漢字であり、なんともいかめしい印象を受ける字だ。訓読みはこの一字で「みなごろし」である。 本作のタイトルでは「鏖殺」で「みなごろし」とルビを振っているが、音読みで「おうさつ」と読むのが普通。いずれにせよ、意味は同じだ。 皆殺しである。誰ひとりとして生かすことなく殺す。 そして最後まで生き残った乙女だけが生者であり、勝者である。 つまりは[[バトルロイヤル]]だ。本作のストーリーは、全寮制の女学園を舞台に、マジカルハートを所有する5人の宝石姫たちによるバトロワ展開が主軸となる。 少女たちにはそれぞれ闘うための動機や目的が設けられている。 トワは家族を殺された復讐であり、エリスは選ばれし者としての[[ノブレス・オブリージュ]]だ。 もう一人、分かりやすいのが副星徒会長である**月影レイカ**だ。旧家の出身で、暁宮家に取って代わるために策謀を巡らせている。 >[!cite] > ![[『鏖殺ノ乙女.』セレナ.webp]] > 引用:[[🎮️『鏖殺ノ乙女.』]]より > > エリスのメイド兼恋人である**夕蒼セレスティナ**(画像右)も宝石姫のひとり。「メイドですから」のセリフであらゆる物事を強引に解決してしまうトリックスターであり、目が離せない。 > 彼女はエリスの勝利のために闘う。個人的に本作で一番お気に入りのキャラクターである。 ## 語り手の座をめぐる戦い 本作の地の文はゲームシナリオとしては少々珍しい三人称文体で書かれている。 登場人物がすべて女性であることから男性ユーザーの感情移入があまり重視されないこと、そして群像劇的に複数の人物の視点へシームレスに移動しやすいことを重視したものと考えられる。 トワがある宝石姫と闘っているその裏で、別の人物は何をしていたか。 物語が進み、それぞれの人物の視点が重ねられていくにつれて、彼女たちの動きや真の目的が徐々に明らかになる。劇中で描かれる[[バトルロイヤル]]のゲーム性を高めることにもこの三人称の語り口が高い効果を上げている。 当然、物語から退場した人物についてはそれ以降語られることはない。 つまり本作のバトルロイヤルは、==最後まで語り手によって物語られた者が勝者である==という見方もできる。果たして誰が物語を語りきり、ピリオドを打つのか。 本作の語り口について、もうひとつ言及したいのが選択肢の使い方だ。 命のやり取りが描かれる本作において選択肢の役割は重い。誤った選択は登場人物の生死に直結するからだ。 そのことを前提に==選択肢を用いた演出に注目==して楽しむことをお勧めしたい。どんなタイミングに、どのような形で選択肢が表示されるか(あるいは表示されないか)。私はここに感心した。実は本作の大きな魅力のひとつであると考える。 私は普段から攻略サイト否定派であるが、本作については特に事前に攻略を見ないことを勧めたい。ルート分岐などが複雑な作品ではないので困ることはないだろう。 ## エッチシーンの傾向 抜けるか抜けないか。イエスかノーかで答えるならば、抜けなかった。しかし、そのことをもって腐すのもちょっと違うと感じる作品である。 クリエイター陣の名前を見ると、分かっている方ならばどうしてもハードなエロスを期待してしまう座組ではある。ところが同じコアスタッフで制作された前作[[🎮️『魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis』]]と今作の公式ページのギャラリーを並べて見てみるとはっきりとした傾向の違いが浮かび上がる。 - [魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis](https://metalogiq.jp/games/deadendaegis/#4) - [鏖殺ノ乙女.|GALLERY](https://metalogiq.jp/games/minagoroshi/gallery.html) ずばり、今作は==男根は出てくるが男性が不在==なのだ。そもそも『殺戮ノ乙女』には女性しか出てこないのだから当然だ。シーンの大半は自慰やレズプレイである。この点は嗜好によっては実用性激減だろう。 男根は[[バトルロイヤル]]における敗者への罰ゲームとしてで出てくる。しかし、それらのシーンも「抜かせる」ことを意図していないように思う。どのシーンも「美味しいのはここから」というところであえてシーンを切り上げてしまうのだ。これをもって怒ろうと思えば怒ることもできるが、私は擁護したい。 この演出の意図は、残酷な世界に生きるヒロインたちへの凌辱と絶望を前に、プレイヤーは(作中で言うところの)「オス」になれるのか? と試していると感じた。 この「試される」感じこそが物語のテーマと繋がってくる。全編クリア後、人類のことを信じた彼女たちの悲惨な姿で抜かなかった自分を褒めたくなった。 ## 総括 偽りの歴史が真実を覆い隠す世界。 物語の中心となるのは5人の変身戦闘少女たちによる[[バトルロイヤル]]であるが、その物語の外殻を覆う世界観設定がゲーム全体を二転三転させる。 また、史実に基づく小ネタも設定に数多く忍ばせており、ここも偽史ものとしての魅力のひとつだ。 同時に、学園バトロワの中で育まれる少女たちの親愛を耽美的に楽しむ百合作品でもある。 はじめは自らの<ruby>目的<rt>エゴ</rt></ruby>のために戦っていた少女たちが、次第に愛する誰かのために死闘を繰り広げることになる。そこが熱い作品だ。 >[!info] > ![[🎮️『鏖殺ノ乙女.』#関連ノート]] > ![[🎮️『鏖殺ノ乙女.』#関連リンク]]