# [[🎮️『やりなおしクランクイン』]]ネタバレなしレビュー
![[レーティング#^r-18]]
![[『やりなおしクランクイン』タイトル画面.webp]]
>[!info]
> ![[🎮️『やりなおしクランクイン』#概要]]
> ![[🎮️『やりなおしクランクイン』#主要スタッフ]]
![[🎮️『やりなおしクランクイン』#オープニングムービー]]
## あらすじ
三十路を過ぎた引きこもりの天才作家である **猫屋敷<ruby>叶良<rt>とら</rt></ruby>** はある日、過労で倒れてしまう。
倒れた彼を見つけた妹であり天才薬学研究者の**寝子**は、開発中の不老不死の薬を投与する。するとなんとか一命をとりとめ、そして副作用により二十歳近く若返ってしまったのであった。
寝子の強引な計らいで同じ学園に通うこととなった叶良は、理想の世界を小説として創造することをやめて、現実をちゃんと生きてみようと思った。
執筆活動を引退し、学園に通い始めた彼が出逢ったのが映画研究会の部長兼監督である**神鳥流花**だ。コンクール用の映画脚本を募集する彼女に惹かれた叶良は、流花をヒロインに当て書きした脚本を提出する。
流花はその脚本と、そして叶良の底知れぬ才能を気に入って彼を勧誘する。「==私を輝かせるために映研に入部しなさい==」と。
「やりなおし」の設定の荒唐無稽さからも分かるように、基本の雰囲気はかなりコメディよりだ。
天才作家の主人公、天才薬学研究者の妹(若返り後はお姉ちゃんぶる)、そして映画への情熱を燃やし役者としても天性の才能を持つヒロイン。そんな極端なキャラクターが揃った現場で冷静なツッコミを入れる(時に自らボケる)ヒロインの友人である**辰巳深空**の四人が織りなす映画制作の青春を楽しく描き出す作品である。
>[!cite]
> ![[『やりなおしクランクイン』邪教徒.webp]]
>
> 映画への情熱が強すぎるがあまり、面倒な映画ファンにありがちな強火の思想を垣間見せる流花。ちなみに私も至極同感である。
> 引用:[[🎮️『やりなおしクランクイン』]]
## なぜ、やり直すのか
ちょうどアラサーの主人公が学生時代をやりなおす、というコンセプトの[[🎮️『何度目かのはじめまして』|作品]]が本作ダウンロード版発売の前月にリリースされていた。
この重複を単なる偶然として処理することもできる。しかしうがった見方をすると、高齢化したエロゲーユーザー層が感情移入しやすい同年代の主人公にしようと模索した結果、若返ってやりなおす、というネタが効果的だという同じ結論に至ったのかもしれない。
これならば主人公とプレイヤーの立場の乖離を小さくしつつ、学園モノという強固な型を持つジャンルを利用したドラマが展開できる。
実際に作り手がどう考えてこのアウトプットに至ったのか外野からは推し量ることしかできないが、結局重要なのはこの「やりなおし」というネタが本作の面白さに強く貢献しているかということだ。そうでなければわざわざ凝った段取りを挟むことなくいきなり学園モノとして始まるほうが良かったとなりかねない。
そういう意味では、個人的には「やりなおし」が本作の面白さになかなか効いていた、と断言したい。
それは本作のもう一つの題材である「映画制作」との相乗効果にある。
主人公の人生を通して一度として経験することが叶わなかった理想の青春。
映画という創作活動を通して生み出される現実には存在しない理想のヒロイン。
「やりなおし」によってこれまで引きこもっていた現実を塗り替えるような理想の青春を追い求めることと、脚本を土台としカメラの前で演じることでのみ顕現する理想のヒロインを追い求めること。
==この二つのストーリーラインが交わることで「現実があるからこそ理想がある」というテーマが浮き彫りになる==。人生をやりなおすことと、映画の撮影開始を意味するクランクインとを並べ、ともに現実を理想に変えていくことの開始点と見なしてドラマを構築しているところに感心した。
>[!cite]
> ![[『やりなおしクランクイン』理想を現実に.webp]]
>
> 脚本家や監督と同様に、役者という職業もまた自らの肉体という「現実」を用いて、架空の人物に命を吹き込むという、現実を理想へと昇華させる営みと言える。
> 引用:[[🎮️『やりなおしクランクイン』]]
そして「変わる」ということは、良かれ悪しかれ成長である。
本作は流花という一人のヒロインの一本道のストーリーであるが、映画制作に関わるサブヒロインたちの成長も物語の中で描かれる。
理想を追い求めること、そして映画制作の困難を通じて成長する登場人物たちの姿もまた本作の魅力である。
## バイノーラル録音によるエッチシーン
本作の特徴のひとつとして、**バイノーラル録音**、すなわちヒロインが目の前で話しているかのように聞こえる特殊な収録方法で録られた音声によるエッチシーンを挙げたい。
個人的に、バイノーラル録音で演出されたエロゲーのエッチシーンを本作で初めて体験した。率直に言えば、明確にそれが原因で抜けなかったのだが、試み自体は面白く、「==エロゲーのエッチシーンで大切なリアリティとは何か==」を考える上での良い材料となった。
本来、現実の視覚情報は連続的な運動としてしか存在しえない。だがこの手のゲームではその運動を一枚の静止画とテキストによる叙述とに還元することによってプレイヤーに時間の経過を体験させる。そこにこの形式の経済的優位性がある。
しかしその代償として、一枚絵と叙述の間に齟齬が生じたときにプレイヤーは強い違和感を覚える。本来ひと続きであるはずの運動や空間的連続性を「一枚絵」と「テキスト」に分離したことで、そこに矛盾が入り込む余地が生まれてしまうのだ。
そして同じ問題はバイノーラル録音による音声にも現れる。一枚絵が示す位置関係と、耳元でささやかれる声の定位が一致しないとき、その不一致は無視しがたい不快感として立ち現れる。
具体的には、右耳元で囁かれた次の瞬間に左耳元で囁かれたとき、それが一枚絵が示す位置関係では説明しにくい身体移動が起きていると考えてしまったのだ。その瞬間、私はその行為ではなく、キャラクターの物理的な位置関係について考えさせられてしまった。本来股間に集中すべき血流が脳に回ってしまったのだ。
いわゆるノベルゲームの形式とは本来、運動や空間の情報の一部を切り捨てることで成立している。そこに改めて空間情報を持ち込むのであれば、他の要素との整合性はより慎重に設計されなければならない。
そうでなければ、そのリアリティは没入を深めるどころか、世界の綻びを露わにしてしまう。私にとって、初めてのバイノーラル録音で収録されたボイスによるエッチシーン体験はそんなことを教えてくれたのであった。そりゃ抜けないや。
ちなみにすべてのエッチシーンがバイノーラル録音ということはなく、全体の40%である。通常録音のシーンでは私もきちんと抜かせていただいたのでご安心いただきたい。
## 総括
「青春やり直し」と映画制作。この二本柱のシナリオで、理想と現実についての思索を描く。その中で語られる創作論も興味深く、映画制作を通したコミカル青春劇も快い。
ルート分岐はなく、流花ひとりを攻略対象ヒロインとした作品なのでその点は留意。一緒になって現実を理想のものに変えようとする戦友であり、そして理想を現実とするために力強く引っ張ってくれる先輩ヒロインとして強く輝いていた。
## 情報
![[🎮️『やりなおしクランクイン』#関連ノート]]
![[🎮️『やりなおしクランクイン』#関連リンク]]