# [[🎮️『STEINS;GATE』]]ネタバレなしレビュー ![[レーティング#^r-15]] **2025年に到達した運命石の扉** ![[『STEINS;GATE』タイトル画面.webp]] >[!info]+ > ![[🎮️『STEINS;GATE』#概要]] > ![[🎮️『STEINS;GATE』#OPムービー]] > ![[🎮️『STEINS;GATE』#主要スタッフ]] > > ※このレビューでは2010年8月26日に発売されたWindows版を扱います。 ## あらすじ [[科学アドベンチャーシリーズ]]の二作目。 一作目に当たる[[🎮️『CHAOS;HEAD』]]とは世界観やコンセプトを踏襲しているが、本作からでも問題なく楽しめる作品となっている。 秋葉原の雑居ビル二階を本拠地とする発明サークル・**未来ガジェット研究所**の代表である**岡部倫太郎**は鳳凰院凶真と名乗り、狂気のマッドサイエンティストを自称する、へんてこな発明を繰り返す厨二病大学生。 彼が発明したもともとは電子レンジを遠隔操作することを目的とした**電話レンジ(仮)** であったが、操作を誤るとレンジの中に入れたものがゲル状になってしまう怪現象が起こる。その原因を調べるうちに電話レンジ(仮)を通して==過去へとメールを送ることができる==ことに気づく。 岡部は、幼馴染の**椎名まゆり**や右腕となるハッカーの**橋田至**、あるきっかけから交流を持った天才少女の**牧瀬紅莉栖**らとともにこの現象の解明と電話レンジ(仮)の改良を進めていく。 しかし、世界の仕組みの一端に触れたことで彼らは逃れられない悲劇と陰謀に巻き込まれることになる。 >[!cite] > ![[『STEINS;GATE』円卓会議.webp]] > 引用:[[🎮️『STEINS;GATE』]] > > ラボメン(ラボラトリー・メンバー)が集う未来ガジェット研究所の一室が主な舞台となる。 ## 世界の仕組みに科学で迫る 現代科学では存在しえない[[タイムトラベル]]がフィクションで度々語られるのは、誰もが過去に後悔を抱えておりそれを解消したいという欲望を持つからだ。あるいは、未来に起こり得ることを知ることでいずれ過去となる現在に後悔を残さないためだ。 しかし、現代の物理学では[[タイムトラベル]]の実現は不可能だと考えられている。本作でも、紅莉栖によって[[タイムトラベルの11の理論]]が紹介され、それらの現実性のなさを丁寧に解説するシーンが序盤に挿入されている。 >[!cite] > ![[『STEINS;GATE』ワームホール理論.webp]] > 引用:[[🎮️『STEINS;GATE』]] > > 劇中の「ワームホール理論」の解説シーン。小話として面白いだけでなく、紅莉栖の講演に岡部が茶々を入れ、それをいなしていく掛け合いもよくできている。 そのうえで、本作は作中世界のルールに則った「リアル」に感じられるタイムトラベルの可能性が示される。それは、はじめは偶然の産物であったが、岡部たちによる考察、検証、実験のプロセスによってだんだんと実体を伴うものとして解明されていく。 ==本作の面白さのひとつは、タイムトラベルとそれに関連する世界の仕組みが、登場人物たちの試行錯誤によって徐々に明らかにされていく、その過程である==。 それはフィクションにおいて伏せられた設定が開示されていく快感だ。[[タイムトラベル]]を扱うということは、必然的に「**時間とは何か**」という普遍的かつ巨大なミステリーに挑戦することにもなる。本作が提示するその謎は全編を通してプレイヤーの興味を牽引する。 ## 欲望と成長 [[タイムトラベル]]を実現する過程において実験が繰り返される。 **Dメール**と名付けられる過去にメールを送る技術が本物かどうか、それによって本当に過去が変わるのかを確かめる必要がある。 しかし、岡部にはDメールを利用して何をしたいかという具体的な欲望がない。それは厨二病な振る舞いからも分かる通り、彼が精神的にまだ子供だからだ。時間を支配することで世界に混沌をもたらしてみせると息巻いてみせるが、具体的にどう扱えばよいのか分かっていないのである。 だからその実験は岡部以外のラボメンたちによって実行される。身近なものから突拍子もないもの、切実なものまで、「過去を変えたい」という欲望はDメールによってどうなってしまうのか。そして、それら==他者の欲望によって右往左往させられる岡部の姿が(ギャルゲー的にも)本作中盤の見どころ==となる。 ところが岡部もあるイベントをきっかけにある欲望を抱き、過去を変えることに手を染めることとなる。それは彼が子供でいられなくなったことを示しているともいえるだろう。 そしてこの展開以降、物語のフェーズはがらりと変わる。ある意味で本作は岡部の子供期と大人期の二部構成になっているともいえるだろう。 ## 世界と主観 本作のテキストは岡部の主観視点から離れることはない。それは、岡部には[[タイムトラベル]]に深く関わるある特殊能力があるからだ。 本作の[[タイムトラベル]]は、過去の出来事を変えてしまうとそれに従って現在の世界の有り様も変わってしまう。しかし、「変わる前の現在」と「変わった後の現在」との変化を理解するためには、「変わる前の現在」の記憶を維持しなければならない。 そして作中で唯一、岡部にだけこの記憶を維持する能力がある。あたりまえの話だが、過去を変えるたびに語り部の認識もろともリセットされてしまっては連続性のある物語として成立しなくなってしまう。==だから岡部にはこの物語の主人公であるしかるべき理由があり、かつ岡部の主観視点を徹底することにドラマとしての意味がある==のである。 >[!cite] > ![[『STEINS;GATE』フォーントリガー.webp]] > 引用:[[🎮️『STEINS;GATE』]] > > 本作はプレイ中いつでも取り出せる岡部の携帯電話の操作によって物語が分岐する。 > 手元の携帯電話を操作する、という画面構成を導入することで岡部の主観性を強調する効果もあるだろう。 実は、本作には作中外にもう一人のタイムトラベラーがいる。それはプレイヤーだ。 プレイヤーはゲームのシステムからセーブとロードを駆使することで作中世界のあらゆる時間を自由に行き来することができる。しかし、どの時間に飛んだとしてもそれは岡部の主観に入ることだけしかできない。 その上で、本作はあるエンディングに到達するための難易度をやや高めに設定している。プレイヤーはセーブとロードを駆使してそのエンディングに到達するための試行錯誤を要求されるのだ。 その過程でプレイヤーは==タイムトラベルに翻弄される岡部と同じ経験をする==ことになる。これは主人公への感情移入のさせ方としてゲームならではの手法を用いた見事な演出だと感じた。 ## ゼロ年代のオタク文化を封入したタイムカプセル ここまでは作中の要素についてだけ話をしてきたが、ここでは2025年にはじめて本作に触れた身として少し語らせていただきたい。 本作は2010年の夏を描いた物語だ。[[Xbox|Xbox 360]]版の発売は2009年10月であり、企画・開発されたのは2000年代(ゼロ年代)後半の期間だろう。 舞台が秋葉原であったり、岡部の厨二病設定からも分かるように、本作はゼロ年代の中盤から終盤にかけてのオタク文化を強く反映した作品だ。 岡部の携帯電話は[[スマートフォン]]ではなく[[フィーチャーフォン]](ガラケー)だ。日本のインターネットにおける交流は[[2ちゃんねる]](現5ちゃんねる)がまだ幅を利かせており、作中人物も2ちゃん由来の用語を度々口にする。作中の難解な用語について解説する用語集が付いているが、ご丁寧にもこの頃のオタクが面白がっていた些細なネタについてもその多くが解説されている。 その多くは現代では古びたものとなっており、世代によってはさっぱり理解できないものもあるだろう。それが時代性を刻印するということだ。作品の根幹部分にそのような要素を含ませることが欠点となることもあるが、[[タイムトラベル]]を扱った本作においてはそれがある種のタイムカプセルとして機能していた。 なんといってもオタク文化の聖地と呼ばれ、そのことにまだ疑いなかった頃の秋葉原に本作を通して訪れることができるのだ。 物事は予測不能に変化し続け、人類が認識不能なところにまで宇宙は広がっていて、だから現実世界の可能性は無限に発散する。秋葉原がオタク文化の聖地であると信じられなくなったように。 しかし、ゲームとして固められた本作において、フィクションとして封じ込まれた<ruby>作中世界<rt>その目に映る景色</rt></ruby>は収束する。物語は、[[タイムトラベル]]は、無限の可能性を錯覚させるが、実際はそうではない。そしてこの有限性こそが、逆説的にヒトに希望を与えてくれるものなのかもしれないと、本作を最後までプレイして私が感じたことであった。 >[!cite] > ![[『STEINS;GATE』人工衛星.webp]] > 引用:[[🎮️『STEINS;GATE』]] > > 本作を象徴する旧ラジオ会館に突き刺さった人工衛星は、物語を通していつでもこの時代の秋葉原に遡れるようにするための錨なのかもしれない。 ## 総括 本作は数多くの魅力的なキャラクターが登場するが、やはり岡部倫太郎――否、**鳳凰院凶真**の物語なのだ。 彼はこの物語の中で常に試行錯誤を繰り返す。たとえ時間に干渉するという神に近い能力を得たとしても、人生は有限であり、その中で試行錯誤するしかないのである。 その足掻きの果てにようやっと、科学でも説明不能な奇蹟のような瞬間が訪れるのかもしれない。だから、諦めず足掻き続けるのだ。 すべては<ruby>運命石の扉<rt>シュタインズゲート</rt></ruby>の選択である。エル・プサイ・コングルゥ。 >[!info] > ![[🎮️『STEINS;GATE』#関連ノート]] > ![[🎮️『STEINS;GATE』#関連リンク]]