# 2025-01-13 [[🎞️『國民の創生』]]活弁付き上映を観る
## 感想
[[📍新文芸坐]]で鑑賞。

### 作品概要
アメリカ映画史における重要作にして問題作だ。
当時最大規模の予算が投じられ、3時間を超える長尺で[[南北戦争]]とその後の[[クー・クラックス・クラン]](KKK)の活躍が描かれる。[[D・W・グリフィス]]監督は本作で様々な映像技法・映画文法を発明しており、後の映画に与えた影響は計り知れない。
その一方で、本作で語られるストーリーには史実の捏造が多く盛り込まれており、白人至上主義団体である[[クー・クラックス・クラン|KKK]]を英雄的に描いてしまっている。本作の国民的ヒットが当時消滅していた[[クー・クラックス・クラン|KKK]]が復活するきっかけのひとつとなった。
本作の問題点は[[📘『最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』]]に詳しい。
私も鑑賞後に数年ぶりに本書を[[Kindle]]から掘り出して[[🎞️『國民の創生』]]評を読み返したが、思っていた以上に史料と本作で描かれる描写との乖離が多く驚いた。
### 活弁付き上映

この企画上映では[[澤登翠]]さんが第一部、弟子の[[片岡一郎]]さんが第二部の[[活動弁士]]を務めた。
活弁付き上映の鑑賞経験は十数年前に一度しただけ。タイトルも覚えていないが、時代劇だったはず。
[[🎞️『國民の創生』]]を今日まで観てこなかったのは、サイレントかつ上映時間3時間超えというハードルの高さからだ(問題作故にリバイバル上映の機会自体がないこともある)。現在[Amazonプライムビデオで視聴できる](https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0DJP31X5P/ref=atv_dp_share_cu_r)が、一気に観通すのはかなり大変だろう。
そのハードルを、活弁付きという付加価値がつくことで超えることができた。ありがたい企画である。
特に本作を活弁付き上映で観れて良かったと思うポイントは第二部のクライマックスだ。
もしも素の状態で本作を観ていたら、どうしても勇ましく英雄的に描写される[[クー・クラックス・クラン|KKK]]に違和感がつきまとったことだろう。そこに活動弁士の語りが補助線を引いてくれる。
ヒロインのピンチに馬に乗って駆けつける[[クー・クラックス・クラン|KKK]]一団のショット、そこでの恍惚とした語りが「英雄物語」としての見方へと強く誘導してくれるのだ。
上映後の解説で==本作最大の問題点はなにより映画として面白いことである==といった旨のことを語っており、その真意を体感するためには何より本作を(当時熱狂した人々と同様に)面白がらなければならなかったのだ。
### 複雑な世界を単純化する物語
上映前の解説の中で、片岡さんはアメリカの歴史とこの映画について「複雑」と表現していた。
たとえば本作では[[南北戦争]]でアメリカが北部と南部に分断された様が描かれる。白人や黒人といった人種の違いによる差別が描かれる。このふたつの観点だけでも北部・南部・白人・黒人という4つの属性が生じる。北部の白人もいれば南部の白人もいる。黒人も同様だ。さらには白人と黒人の混血([[ムラート]])という属性もあり、本作ではムラートが裏で手を引く最大の悪として描かれている。
それぞれの属性に歴史があり、立場がある。たとえおなじ属性の人間同士でも考え方にはグラデーションがある。ことほどさように現実の世界は複雑なのだ。
しかし、エンターテインメントが要請する「分かりやすさ」を実現するためにはその複雑さをどこかで断ち切って単純化する必要がある。
たとえば[[勧善懲悪]]を導入する。ある属性を善とし、ある属性を悪として固定的に配置する。
本作では[[クー・クラックス・クラン|KKK]]という史実的に大変問題のあった団体を善とし、彼らによって虐げられた自由黒人たちを悪として描いた。だからこそ問題なのだが、一見すると道徳的に正しいと感じてしまう[[勧善懲悪]]の構造がその問題点を見えにくくしてしまう。
本作では黒人たちが奴隷から解放された勢いで図に乗って数々の利己的な振る舞いを起こす。それに対し、かつて[[南北戦争]]で争いあった北軍と南軍の白人寄りの人々が協力しあい、その悪行を抑え込むことに成功する。その姿をもってこれが「國民の創生」であると謳い上げる。
この描写は史実からあまりに乖離しているのだが、そのことを知らない場合、本作を観ただけでそうと気付くことはできないだろう。
それどころか、利己的な悪には罰が下り、協力的な善は報われるという[[勧善懲悪]]は正しくあってほしいと私たちは思いがちであり、その観点からこの物語に正義を感じ取ってしまう。[[公正世界仮説]]というやつだ。加えて、かつて争いあった者たちが手を取り合うという、問答無用でみんな大好きな展開がそこに乗っかるのだからなおさら厄介だ。
分かりやすく、面白い。なるほど、これが本作が問題作であるとされる所以なのだなと、活弁付き上映だからこそより理解しやすかったように思う。大変有意義な鑑賞体験だった。
## 情報
![[🎞️『國民の創生』#主要スタッフ]]
![[🎞️『國民の創生』#関連リンク]]