# 2025-01-17 [[🎞️『エマニュエル』]]を観る
![[レーティング#^r-15]]![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### 苦手ジャンル
外国語映画を観る楽しさは、異なる風習や考え方に触れるところだ。
しかしこの楽しさは鑑賞難易度の高さと紙一重のもので、あまりにも異なる思考に基づいてアクションを起こす人物を前にどう思えばよいか分からなくなることもある。
ジャンルにもよるが、フランス映画は他国の映画と比べてもセックスに対して抱く感覚が異なる印象がある。この性への感覚の違いは私にとって作品理解のハードルを上げる傾向にある。
例えば近年の作品だと[[🎞『パリ13区』]]などは登場人物の予測できない動きにうまくついていけず終始振り回され続けた印象が強い。
### 注目監督、[[オドレイ・ディワン]]
そんなわけで、官能文学的なフランス映画はなんとなく苦手ジャンルなイメージである。
そして本作はフランス官能文学映画の超有名作[[🎞️『エマニエル夫人』]](未見)と原作を同じとする作品で、普段なら苦手意識から避けるタイプの映画だ。
ところが本作の監督は[[オドレイ・ディワン]]。
前作[[🎞️『あのこと』]]は人工妊娠中絶が法的に禁じられた時代のフランスを舞台に、もしも望まぬ妊娠をしてしまったら――というシチュエーションを観客に「体験」させる鮮烈な一作だった。その次作なのだから見逃すわけにはいかない。
### 自分の手綱は自分で握る
舞台は香港。高級ホテルブランドの品質監査のためにフランスから送られてきたエマニュエル([[ノエミ・メルラン]])だったが、上司からの命令によりホテルオーナーのマーゴ([[ナオミ・ワッツ]])の裏側を調べることになる。
まずは美術が楽しい。画一化された高級ホテルの内外に香港的なエキゾチシズムが散りばめられており、それを背景に[[ノエミ・メルラン]]が歩くだけで画になる。特に横顔が美しく、プールサイドで常連客の一人であるゼルダ([[チャチャ・ホアン]])に接近する際に見せる横顔がたまらない。
ついで特徴的なのは音のデザインだ。冒頭の飛行機の場面での環境音からはじまり、ホテルを演出する音楽、漏れ場の音まで丁寧に音を演出する。
すると中盤、マーゴがこのホテルのオーナーとなって最初に行った改革が音楽選びだったと言う。選びぬかれた音楽のテンポが宿泊客の行動をコントロールし、それがホテル生活の満足度に繋がるのだと。このくだりはマーゴの手の内を明かすと同時に、本映画自体の手の内をも明かすシーンだ。本作は音で他者をコントロールすることについての映画なのだ。
終盤、エマニュエルはホテルから抜け出して香港の雑多な町並みへと繰り出す。姿を見せず声だけで指示を出す男性上司にコントロールされ、女性同士での足の引っ張り合いをさせられることに嫌気が差したのだろう。
男性からの指示に従うことで得られる安定したポジションを手放して、自分で自分をコントロールして危うくも刺激的な方向へと歩みだすのだ。
ラストは二人の男性を声でコントロールする側に立ったことを示す印象的なベッドシーン。うち一人の男性はエマニュエルの発する言葉の意味がわからない。これは純粋な「音」によって彼を支配した形だ。
冒頭の濡れ場との対称性もあり見事に映画的な幕引きであった。
まあ、やっぱりセックス観についてはついていけないところもあったが、苦手ジャンルな割には食らいつけたように思う。なかなか面白かった。
## 情報
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