# 2025-01-19 [[🎞️『敵』]]を観る
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### 丁寧な暮らし
フランス近代演劇史を専門とする元大学教授のいわゆる「丁寧な暮らし」というやつが淡々と、それでいてテンポのよい編集で繋げられる映画だ。
朝起きて、歯を磨き、原稿仕事をする。
料理を作り、盛り付け、食べる。
ときにバーで人と会い、ときに来客が訪れる。生活の変化はその程度。
丁寧な暮らし描写のなかでお気に入りなのが、レバーを牛乳に浸して臭み取りをするところ。白黒故に、レバーの黒みと牛乳の真白のコントラストが映える。
私も数年に一度くらいは丁寧に暮らそうと思い立ち、レバーを牛乳に浸してみるも「やっぱ変わんねえな」と違いの分からない男を発揮している。だからその美しさに見惚れると同時に、思わず恥じ入ってしまう映像だった。
### 敵の正体
そんな老人の丁寧な暮らしが徐々に「敵」によって侵食され、崩壊していく。
敵とは何か。明確な答えは提示されないが、映画を観る最中は様々なものに敵を見出す。
ひとまずは主人公に害を及ぼすすべてのものを敵と見なしてよいだろう。敵は外からも内からも大挙として押し寄せてくる。
すると、何が「害」なのだろうかという点に私の関心は移った。敵が増えるということは、時が経つにつれて害なるものが増えているということだ。
この映画における主人公の人生を横軸に、害の数を縦軸に置く。すると、そのグラフは単調増加の軌跡を描くだろう。しかし人生は有限だ。実際は、横軸は無限に続くことはない。
<ruby>Xデー<rt>来たるべき日</rt></ruby>の前後で害の数は、そして敵の数はどのような軌跡を描くのだろうか。
私は、縁側に座る主人公の姿から、鋭く尖った山の形を想像した。
ある意味で本作のジャンルは[[ソリッド・シチュエーション・スリラー]]と呼んでもよいかもしれない。
限られた空間、そこに襲いかかる危機、そして抵抗。本作が描くのもそれだけだ。色を削ぎ落とした白黒の映像もその狭さ・小ささを補強しているように思う。
ただ一点、敵を描く。
敵とは、登場人物の生命を左右する、まさにスリルの体現者だ。
### [[吉田大八]]監督作
キレッキレである。
[[吉田大八]]監督作は例によって[[🎞️『桐島、部活やめるってよ』]]で夢中になって以来追いかけているが、本作[[🎞️『敵』]]はこれまでの作品の中では[[🎞️『美しい星』]]に近い面白さだ。奇妙で奇っ怪。キレッキレ。
[[吉田大八]]監督作は、長編映画はすべて原作があるにも関わらず、どれも虚実入り混じった世界が描かれる。そしてクライマックスでは登場人物たちの生きる現実が虚構に喰われる展開が多い(特に[[🎞️『桐島、部活やめるってよ』]]では文字通り「喰われる」)。
その虚構なるものが奇天烈であるほど電波ゲー的なカルト味の強い尖った映画になる傾向が見られる。[[🎞️『美しい星』]]の場合、その虚構とは宇宙人であり、本作の場合は敵だ。そして奇天烈であるほど演出も研ぎ澄まされていく。
そのキレっぷりは監督作すべての中でもトップだろう。[[🎞️『桐島、部活やめるってよ』]]は例外として、何気にそれに次ぐくらい好きな作品へと今後なっていきそうな気がする。
## 情報
![[🎞️『敵』#予告編]]
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