# 2025-01-27 [[📘『アメリカ映画の文化副読本』]]を読む
## 書籍紹介
アメリカ映画をよく観ているが、映画を観ただけでは分からないことはたくさんある。
異文化にはじめて触れた人物の反応を面白おかしく描写する「文化ギャップ」はコメディの定番。ある人物にとっての既存の常識と、新たに置かれた環境の常識との違いは、その人物から面白いリアクションを引き出す。
表面的な理解で知ったかを晒して文化ギャップコメディの主人公のような恥をかかないように……というと後ろ向きな動機だが、映画の背景にある文化を解像度が上がればその映画の解像度も上がる。本書は現地で長期間、それも複数の拠点やコミュニティに在住した経験を持つ、アメリカ政治を専門とする著者によるアメリカ文化の紹介本である。
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> ![[📘『アメリカ映画の文化副読本』#目次]]
## 今から身につけようがない常識
個人的に特に面白かったのは「社交と恋愛」の章と「教育と学歴」の章。
それ以外の章で触れられている話題は今後まじめなお勉強の過程できちんと学ぶ機会がありそうだが、このふたつの章についてはその機会を得る想像がしづらい。
特に「教育と学歴」についてはもう義務教育へ戻ることができない以上、知ろうと思わなければ知れない常識が多く含まれていた。そして、アメリカの青春映画や学園映画にはそういった常識に基づいたネタが多く含まれている。
それらの中から興味深いと感じたトピックをいくつかピックアップして紹介する。
### 同伴文化と同性愛文化
キリスト教原理主義と同性愛文化。どちらもアメリカという国を考えたときに最初の方に思い浮かぶ話題だが、これらは水と油の関係だ。
聖書解釈において同性愛は性的逸脱として非難の対象とされる読み方がある。だから聖書を字義通りに受け取ることを重視するキリスト教原理主義者の中には同性愛を忌避する者も多い。
そんなキリスト教原理主義が根深い地域もあるアメリカにおいてどうして同性愛文化が花開いたのか。理由のひとつとして「同伴文化」の存在が述べられている。
アメリカの地域社会で溶け込むためには、特に中年以上は配偶者の有無が鍵。
日本以上に絶え間ない交際関係が重視されるため、独身者は社交力や交友関係について低評価の烙印を押されてしまうという。
アメリカ学園ドラマの定番シーンにプロムがある。男子が特定の女子を誘い、学校のダンスパーティーへと赴くあれだ。
あれは親ぐるみ、学校ぐるみの「恋愛の練習」。同伴文化への適応訓練と考えると納得しやすい。
そんな社会で同性愛者が生きることを考えたとき、同性婚の重要性は日本以上に大きかったのだ。
### 義務教育は高校まで
義務教育は高校まで。これは盲点だった。確かに、アメリカの高校描写は生徒間の学力差を強く感じることがある。直近の作品だと[[🎞️『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』]]にその感じがあった。
一流大学に進む者も、就職する者も18歳まで同じ教室で机を並べる。だから問題児と優等生の友情は高校が舞台になる。
日本の公立学校では中学卒業・高校進学で「親友との別れ」を経験するが、アメリカでは高校卒業ではじめてそれを経験する場合が多い。だから高校卒業の最後の瞬間をセンチメンタルに描く作品が多い。
この話の流れで[[🎞️『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』]]を想起したが、ずばりこのタイトルが例として挙げられていた。
### 大学別の試験がない大学受験
こないだ観たばかりの[[🎞️『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』]]。
カナダ映画であるが、NYU(ニューヨーク大学)への進学を目指す高校生を描いた青春映画だ。しかしシングルマザーの母親からは学費の問題もあり地元のカールトン大への進学を求められる。
本作には日本的な受験の描写がない。主人公はもちろん受験のために米国に渡るといったこともなく、気づけば合否通知が家に届く。アメリカの入試は書類選考しかないのだ。
[[🎞️『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』]]を観に行ったタイミングではすでにこの章を読んでいたのでこの辺りの描写にひっかかることなく楽しめた。
このように、海外映画を観ていて「たぶん向こうの文化ではそういうものなのだろう」で流している描写は多い。本書はその「そういうものなのだろう」で流してきた多くの穴を埋めることができた。
## まとめ
上記以外にも豊富なトピックに触れられており、そのトピックに関連した映画も色々と紹介されている。
紹介された映画の中で、存在すら知らなかった[[🎞️『ペーパーチェイス』]]が気になった。1972年の映画で、アメリカのトップスクールの大学院の厳しさと成績競争をめぐる雰囲気を正確に描写しているという。ひとまずこれから観てみたいと思う。
![[📘『アメリカ映画の文化副読本』#関連リンク]]