# 2025-02-21 [[🎞️『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

### 対立の歴史、その最前線
2023年10月7日、パレスチナのイスラム組織[[ハマス]]がイスラエルに攻撃を仕掛けて人質を取って以降イスラエルからガザ地区への大規模攻撃が続いた。現在は停戦状態となっているが、恒久的な停戦協議が本格的に始まる様子もなく、先行きは見えない。
本作は2019年夏から2023年10月までのパレスチナを映したドキュメンタリーだ。
故郷の村がイスラエル軍に占領され、次々と家屋が破壊される。その暴挙をカメラに収めて世界に発信するパレスチナ人の[[👤バーセル・アドラー]]。
そんな彼に共感し、イスラエル人でありながらバーセルをサポートするジャーナリストの[[👤ユヴァル・アブラハーム]]。
両陣営の若い映像作家が集い、イスラエルとパレスチナの歴史的対立の最前線にある暴力を克明に記録する。
### 日本にもある風景
個人的に一番印象に残っているシーンは、撮影するユヴァルに対してスマホのカメラを向けて「敵の味方をするのか。Facebookに晒したら袋叩きだぞ」と撮影し返してくる年配のおじさんだ。
こうした手合はどこにでもいる。日本にもいる。見覚えがあるからこそ、「故郷が破壊される」という東京に住んでいては実感しづらい遠い世界の出来事が一気に身近に感じられる。
敵か味方かというあまりにも単純な世界認識を内面化し、「敵」認定した対象に害意をむき出しにする者。しかもそれが力のある側に立ち、安全圏から攻撃する。
若い世代で構成された本作スタッフとの対比もあって、かなりキツい場面だ。その直後に見せるユヴァルの無力さを痛感するような表情も辛いものがあった。
情報通信技術は世界をポジティブに変えてくれるはず。そう昔は思っていたが、とっくのとうに、そのことを無邪気に信じられる時代は終わってしまった。
バーセルやユヴァルはネットに動画や記事を上げることで世間を、世界を変えようと望んでいる。昔ながらの力(武力・権力)を持たない者でも、情報を発信するという新しい力を与えてくれるのが現代の開かれた情報通信技術だ。
しかし、開かれた技術は当然権力側も、そして権力におもねる側も駆使できる。
結局は、異なる論理を内在化した者同士が別々に自分の論理で情報を発信し、[[フィルターバブル]]によって近い論理を持つ者同士にしか情報が届かない世界になった。力なき少数派が発信する情報は、多数派が発する情報に覆われて、届きたい地点までリーチしないのだ。
作中でもユヴァルたちは自分たちの記事について「ちょっとだけ話題になったけどね」と自嘲する様子が数度描かれる。世界を変えるのはあまりにも難しい。
だけどこの映画は東京に住む私にも届いた。この映画を起点に少しでも世界が良くなるような一手を私も考えたい。
## 情報
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