# 2025-02-28 [[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

### 自らの恐怖を見つめ返す
全編、音も映像もノイズまみれ。
画面はほとんど常に暗く、人物もほとんど足元しか映らず、ひとつの家の中から出ることもない。必然的に、映画からキャッチできる情報はわずかしかない。
この[[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』]]という作品は、いわゆる「情報量の多い」「面白い映画」とは対極に位置する。情報量の少ない、退屈な映画かもしれない。
この映画が観客に与えてくれるものは、退屈さからくる眠気と、大音量の[[ジャンプスケア]]による目覚ましくらいかもしれない。
映画から得られる情報が少ないならば、自らの内側を掘り起こすしかない。
ある創作物と対峙するとき、そこにあるのはその創作物と、私たる鑑賞者の二者だけだ。創作物側が何も与えてくれないのであれば、鑑賞者側で何かを調達する他ない。
そして私は私の記憶をこの映画を観ながら掘り尽くした。だから、少しだけ自分語りに付き合っていただきたい。
### 子供のとき、何が怖くて眠れなかった?
本作は、特に序盤はゆっくりとしたテンポで、子供が見る悪夢的なビジョンが描かれる。
はじめはこの映画について考えていた。どうして1995年なのだろう。このザラついた映像はなんなのだろう。そしてこの映像は誰が撮ったという体裁のものなのだろう。
しかしこの映画が与えてくれる情報は少なく、すぐに思考は袋小路に迷い込んでしまった。そこで私はこの「子供の恐怖」を描く映画を観ながら、私自身が子供の頃に恐怖で眠れなかった体験を思い返していた。
思い出せる限り、はじめて恐怖で眠れなかった体験は[[🎮️『クロックタワー2』]]の[[シザーマン]]だ。
閉鎖空間に閉じ込められ、巨大なハサミを持って襲いかかる怪人との追いかけっこ。友達がプレイしているのを隣で見ていただけだが、それでもべらぼうに怖かった。
特に[[シザーマン]]に追いかけられている時に流れるBGMと、巨大ハサミを開閉したときに鳴り響く金属が擦れ合う音が頭から離れず、連日眠れなかった覚えがある。
ちなみに[[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』]]ではカートゥーンアニメがひとつ恐怖のシンボルとして描かれる。それを見て、そういえば[[シザーマン]]もテレビでカートゥーンを見ながら気味悪くけらけらと笑うシーンがあったなと思いだしたりした。
次に思い出したのは、正直これを告白するのはいくらか羞恥心もあるのだが、[[🎮️『ピクミン』]]だ。それも原生生物への恐怖ではなく、大量のピクミンたちを溺れ死させてしまったという体験がトラウマとなってしまったのである。
[[ニンテンドー ゲームキューブ]]と一緒に買ってもらった[[🎮️『ピクミン』]]だが、上記の体験が原因でその晩は眠れなかった。布団の中で、霊体となって消えていくピクミンたちのことを思いながら、あのゲームを続けてもよいのだろうかと本気で考えていたのだった。自分は大変な間違いを犯しうる、という恐怖に直面した体験だった。
ちょっとナイーブな子供だったなあ(いや、今もか)と顧みつつ、その結果として常に過ちを犯してしまう自己イメージに怯えてしまう大人になってしまった。
### 恐怖のリサイクル
[[🎞️『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』]]の舞台挨拶で[[清水崇]]さんが述べられた「サステイナブルな恐怖」を目指したいという表現が印象に残っている。
>[!check]
> 以下のノートで舞台挨拶について少し言及している。
> - [[2025-01-25 🎞️『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を観る]]
モノを知らない幼少期の恐怖体験を大人になっても持続的に味わいたい。そうした欲求がホラー映画作家というけったいな仕事を成り立たせているというような文脈だっただろうか。
その文脈に乗っかって言えば、[[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』]]は私にとって、すでに怖がり尽くしたと思い込んでいた幼少期の恐怖体験の記憶を、再び恐怖可能な対象へとリサイクルしてくれる作品だった。
子供の頃は、閉じ込められることが、間違えてしまうことが、あんなにも怖かった。
いや、それは今でも本心から怖いと思えるものだったのだ。本作の鑑賞中、特に中盤の「消えるウサギのループ」以降は、全身が強張りっぱなしだった。
本当に怖かった。もしかしたら、生涯で一番怖かった映画体験だったかもしれない。間違いなく今年の個人的ベストに食い込むレベルの傑作だ。
### それでも万人にはオススメしない
とはいえ本作はかなり実験的なアート映画だ。分かりやすい面白味には欠けると言わざるをえない[^1]。
いわゆる[[ジャンプスケア]]がしつこいという非難も成り立ちそうだ。私はあの激しいフラッシュと甲高い悲鳴やノイズによる驚かしは、もちろんそれ自体でびっくり怖がらせる狙いもあるだろうが、それ以上に目覚ましの効果を狙ったものであると考える。
この映画はその情報量の少なさから鑑賞者を眠りに誘っておきながら、それでも本当に恐ろしい悪夢とは起きているときにしか見ることができないのだと挑発してくるのだ。
## 情報
![[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』#予告編]]
![[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』#主要スタッフ]]
![[🎞️『SKINAMARINK スキナマリンク』#関連リンク]]
[^1]: 数少ないユーモアとして、本作の制作会社である**ERO Picture Company**という文字が大きく画面に表示されるオープニングクレジットが挙げられるだろうか。日本人にだけ謎に刺さる社名である。