# 2025-03-08 [[🎞️『TATAMI』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

### 国際スポーツ大会の政治性
「スポーツに政治を持ち込むな」という愚論がある。
オリンピックやワールドカップなど、国際スポーツ大会がメディアを賑わせる度に[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]でこの文字列が目に入ってげんなりする日々だ。
スポーツ嫌いの私からすれば、複数の対象に対して何らかの序列をつけること自体かなり政治的なふるまいである。さらに踏み込んで言えば、この愚論をろうするネットユーザーに限って、その序列を(選手個人ではなく)国家に対してつけたいという欲望を感じざるをえず、辟易してしまう。
私のような捻くれ者の意見はどうでもよい。本作[[🎞️『TATAMI』]]を観ると、実際に国際スポーツイベントを運営する側はそこに政治的なものが入り込まざるを得ないということを心得ている(そうじゃないとやっていられない)ことがよくわかる。
### 実話を元にしたフィクション
世界柔道選手権にイラン代表として[[ヒジャブ]]を着用したまま出場するレイラ([[👤アリエンヌ・マンディ]])。当日のコンディションは最高で、この調子なら金メダルにも届きうる。
しかし、そんな彼女に対しイラン政府から直々に試合を棄権するよう命令が下る。
もしも彼女が勝ち進んでしまうとイスラエル選手と決勝戦でぶつかりかねない。そこで、イラン政府としては敵対国であるイスラエルとの対等な試合を行うことを快く思わないという不条理な理由で、ひとりの個人に理不尽を押し付けてくるのだ。
本作はフィクションであるが実話を元にしている。
イラン出身の男子柔道選手であり、2019年に日本武道館で行われた世界柔道選手権に出場した[[👤サイード・モラエイ]]がモデルだ。
彼は大会後、ドイツに渡って難民認定を受け、2021年の東京オリンピックではモンゴル代表で出場して銀メダルを獲得した。
### ずしんとくる疲労感
人生を賭けて練習をした末にようやく憧れの舞台に立つことができたというのに、政府から自国に残る家族を人質に取られて棄権を迫られるレイラ。それを拒否しつつも家族の安否に不安を抱えたまま試合に出続ける。
ここまで激しく追い込まれる主人公もなかなか見ない。それに加えて柔道という格闘技の一瞬も目が離せない緊張感が合わさって、相当に疲れる映画である。
[[スタンダードサイズ]]のアスペクト比による狭い映像はレイラにつきまとう窮屈さや閉塞感を感じさせる。それと同時に、二者が接近して技を掛け合う柔道の競技性とも、正方形に近い画面サイズが合っているように感じた。見事な演出である。
余談。
日本の武道である柔道が題材であるにもかかわらず、強豪国であるはずの日本人はひとりも出てこない。多国籍な題材ゆえに、競技自体に日本色が強いことからバランスを意識しての采配かもしれない。
しかしうがった見方をすれば、世界的に見ても難民認定数が極端に少なく、かつ難民保護体制も不十分という、こと難民問題に関しては不甲斐ないにもほどがある本国の事情を無視することはできない。難民をテーマとしたこの作品においては無視されてもしょうがないとも思った。
## 情報
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