# 2025-03-25 [[🎞️『ANORA アノーラ』]]を観る
![[レーティング#^r-18]]
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### はじまりはセックスコメディ
ファーストショットからストリップクラブの様子をじっくりと描いており女性の臀部や乳房が次々と映りまくるなか「これが今年のアカデミー賞作品賞か」と良い意味で時代の流れを感じたりした。
身体は金銭と交換可能な商品である。コミュニケーションは付加価値である。そんな世界に生きる"アニー"ことアノーラは、[[オリガルヒ]]のロシア人御曹司イヴァンに見初められて専属契約を結ぶと、ラスベガスでのどんちゃん騒ぎの末にスピード結婚してしまう。
イヴァンからプロポーズを受けるまで、アノーラのイヴァンに対する接し方は私にはビジネスに見えた。浮かれた仲間たちと調子を合わせてみせるが、自身から率先して浮かれた姿を見せずにいる。世界観がまったく異なる大富豪の遊び方に適応できていないから、という解釈もできるだろうが、後々のアノーラの強さを目にするとそれがしたたかな彼女の戦い方なのではないかと思わずにはいられない。
イヴァンは結婚したことを周囲に告げず、先行して噂話が両親の耳に届いてしまう。
イヴァンの一族の下で働く三人の男たち(たまらず「三バカ」と呼びたくなる)がイヴァンの家に訪れたことで幸福から一転。イヴァンは逃走し、アノーラと三バカによる捜索がはじまる。
ニューヨークを駆けずり回る行き当たりばったりなドタバタ劇はアノーラと三バカのいずれも乱暴な性格がハリケーンのように周囲に迷惑をかけまくり、愉快で笑える。
### そして現実の厳しさに圧し潰される
そんな笑える本作の後半で個人的にヒヤリとしたシーンがある。
イヴァンの両親が到着し、結婚無効手続きのために事務所に訪れたシーンでの、アノーラとイヴァンの母の問答だ。あからさまにアノーラを下に見る母親と、そんな母親を含めた一家に対してFワードを繰り返しながら罵倒するアノーラ。そんな二人を見て爆笑するイヴァンの父親。
思わず釣られ笑いしてしまう場面だ。しかしこの父親に乗るのはあまりに危険だ。彼は、自分の息子の後始末をすべて妻に任せて傍観するのみ。その過程のドタバタを笑う姿は単に無責任のみならず、自らの代わりに動く妻に恥をかかせる行為でもある。
確かにイヴァンの一家はみんなそろってクズである。しかし、ほとんどセリフがないが故にわかりやすい失点が少ないこの父親こそが、真に人間のクズだと気づくのに遅れてしまい、ばつが悪い思いをした。
そうした現実の厳しさ痛感する終盤。自分の身体を金銭を交換するセックスワーカーの世界観を内面化したアノーラが、そこから外れたコミュニケーションを取る存在を前にして、戸惑いのあまりついに崩れ落ちてしまう姿は見ていて苦しい。車のワイパーの音が、今もしつこく耳にこびりつく。
## 情報
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