# 2025-04-05 [[🎞️『悪い夏』]]を観る
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### 普段あまり考えないようにしていること
社会で最低限の生活を送るのにも窮する人のために生活保護制度がある。
そこには金銭の受給が生じるため、そこにつけ込んだ不正や、否応なく生じてしまう上下関係によるトラブルはやはり起こり得るのだろう。
本作は群像劇的に生活保護制度にまつわる(観客の偏見も含めた)暗部を描くサスペンスだ。
### 圧迫感
タイトル通り、うだるような暑さの夏が舞台。
貧困者が多く登場する本作では、エアコンもろくに回せない生活を送る様が映し出されており多くの場面で登場人物たちは汗だくだ。それを強調するように人物に寄ったショットが多く、映像的な圧迫感がある。
この圧迫感はそのまま物語に生かされる。生活保護の不正受給という社会悪に絡め取られ、そこにやむなく加担することになる主人公佐々木([[👤北村匠海]])が後半に見せる表情の息苦しさにはたまらないものがある。
不正ばかりが蔓延り、真に助けを必要とする人には届かない。そんな現実に直面したとき、その圧力に耐えきれなくなった佐々木が爆発し、その結果とんでもなくハチャメチャなクライマックスへとなだれ込む話運びはお見事だ。
### 個人の限界
[[👤城定秀夫]]監督らしい味付けの濃いキャラクターの中、個人的には[[👤伊藤万理華]]さん演じる主人公の上司の宮田がお気に入り。
どこか異様な正義感に燃える彼女は、「不正受給者への最大の武器は潔癖であること」と息巻く。だから受給者に肉体関係を迫った同僚にきちんと落とし前をつけさせるのだという。
どうしてそこまでして、という思い(その真意はクライマックスで思わぬ形で明かされる)とともに、こと生活保護制度においてはこの意識は重要であると思わされる。
たとえ善良にみえる者であったとしても、人間である以上はどうしても私利私欲に流されてしまう。誰かに潔癖であり続けることを期待するのは楽観的すぎる。[[👤河合優実]]さんが同じような貧困女性を演じた[[🎞️『あんのこと』]]でもまさにそのことが描かれていた。
だから社会的弱者の救済は、一個人や小規模な団体ではなく、国や社会のレベルで行うことが理想だ。国や社会には透明性が求められ、潔癖さが確認可能でなければならないという前提があるからこそ、我々はそのような仕事を安心して任せることができる。
はたしてその理想が現実に達成できているかと聞かれると思わず苦笑してしまいたくなるものの、少なくとも現場の人間には理想を抱いていてほしい。だからこそ宮田のセリフには刺さるものがあるし、だからこそ終盤の彼女のとある振る舞いが大きなサプライズとして巨大なおかしみが生じてくるのである。
ああ、やっぱり社会正義を一個人に任せているようじゃダメなのだ、と。
## 情報
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