# 2025-04-28 [[🎞️『シンシン/SING SING』]]を観る ![[ネタバレ#^warning]] ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『シンシン/SING SING』観た。刑務所における舞台演劇を通した更生プログラムを描く実話の映画化。現実の、しかも刑務所という最も「劇的」という言葉から遠い場所でめばえた創造性。怒る演技は簡単で、傷つく演技は難しい。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1916804775712329736) ### 囚人舞台演劇モノ 囚人たちが舞台演劇を通した更生プログラムを受ける――という題材は[[🎞️『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』]]という先例がある。こちらが大好きな映画なので、同じ題材ということで本作も期待していた。 [[🎞️『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』|🎞️『アプローズ、アプローズ!』]]が「驚きの実話」テイストなのに対して、[[🎞️『シンシン/SING SING』|🎞️『シンシン』]]はより地に足のついたドラマという印象だ。 >[!cite] > [[🎞️『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』|🎞️『アプローズ、アプローズ!』]]をまた観返したくなった。パンフレットも素晴らしく、このノートを書きながら押し入れから引っ張り出してきた。 > > ![[🎞️『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』#予告編]] 更に[[🎞️『シンシン/SING SING』|🎞️『シンシン』]]ではこの更生プログラムを実際に受けた方たちが多く本人役として出演しており、この企画そのものが更生プログラムへの理解促進に繋がっているところも価値がある一作だ。 ### 「役を演じる」という非日常 「役を演じる」ことによる人物の変化を捉えようと試みた作品は数多い。 劇映画ではやはり[[🎞️『ドライブ・マイ・カー』]]が真っ先に思い浮かぶ。 ドキュメンタリー映画ではかつて自分が行った虐殺を演じさせる[[🎞️『アクト・オブ・キリング』]]が強烈だ。 フィクションとドキュメンタリーの中間作として、オリジナル劇の脚本の読み合わせやリハーサルのみを映すことで役者の変化を追う[[🎞️『王国(あるいはその家について)』]]という奇作も。 「役を演じる」ことはその人に何をもたらすのだろうか。 役の対象を自分の内側に迎え入れること、台詞や所作を繰り返すことで身体に馴染ませること、人前で見世物になってみせること……様々な非日常がその人の在り方を変容させる。 本作で描かれる[[Rehabilitation Through The Arts|RTA]]という更生プログラムでは演劇などの芸術を通じたワークショップで受刑者の生活スキルの向上が目指されている。 確かに、芸術はそれ自体が楽しいものだ。それを仲間たちと作り上げていく過程には様々な成長の機会が生じる。本作でも些細な衝突はあるものの、順調に自分たちの演劇が形になっていく様は観ていて楽しく、多幸感もある。 この多幸感は、刑務所という「自由」からもっとも遠い場所で、演劇という場においては誰にも冒されない自由が得られる、というところにあるだろう。 ### 正しく傷つく 本作の中盤には大きな試練が待ち受ける。 その試練は「劇的」という言葉とは程遠い、単なる現実だ。「自殺ならばわかる」という台詞がさらりと差し込まれることで、その事象の「劇的でなさ」が強調される。 その現実を前に主人公の**ディヴィアンG**([[👤コールマン・ドミンゴ]])はメンタルを大きく崩し、本番の舞台上で怒りに支配されてしまう。 そこで思い起こされるのが前半のシーンで語られる台詞だ。「怒る演技は楽勝だ。傷つく演技は難しい」といったニュアンスだっただろうか。この台詞から、「正しく傷つく」ことに直面する[[🎞️『ドライブ・マイ・カー』]]を想起せざるを得なかった。 演出家のブレント([[👤ポール・レイシー]])は度々「プロセス」の重要性を説く。演劇を行うに至るまでの企画、脚本、配役、練習、そして本番という手順を正しく踏むことがその結果よりも大切なのだと。しかしディヴィアンGは怒りのあまりプロセスを拒否し、逸れてしまうことで孤立してしまう。このとき彼は正しく傷つく機会を失ってしまうのだ。 そこからまたディヴィアンGが戻って来る「プロセス」に感動した。 誰だって怒りに流されることがある。怒りが簡単なものであるならば、怒りに対して怒りで返したくもなるところだ。そこを辛抱強くケアしようと手を差し伸べ続けるという、困難さと大切さが誠実に描かれていると感じた。それは、シンシン刑務所においてもとを辿ればディヴィアンGが最初にはじめたことなのだ。 ## 情報 ![[🎞️『シンシン/SING SING』#予告編]] ![[🎞️『シンシン/SING SING』#主要スタッフ]] ![[🎞️『シンシン/SING SING』#関連リンク]]