# 2025-05-20 [[🎞️『サブスタンス』]]を観る ![[レーティング#^r-15]] ![[ネタバレ#^warning]] ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『サブスタンス』観た。この世界のルール。勝者は愛される。敗者はどうなる? 美しい肉体を持つ者が勝者というゲームに全ブッパした女性の成れの果てに、悲しさと恍惚を覚える。久々に開いた口が塞がらなかった。傑作。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1924826552774361219) ### 華麗なる分身 前評判から期待していた作品だったため、あまり予告編をちゃんと観ずに劇場へ。 元人気女優の**エリザベス**([[👤デミ・ムーア]])はまったく新しい再生医療により美しさを取り戻すが――くらいの想像で観に行ったので、==実際に分身する==という展開には驚いた。 「サブスタンス」の注射を打つやいなや、エリザベスの背中がパックリと割れ、中から「完璧な」若さと美しさを取り戻した**スー**([[👤マーガレット・クアリー]])が出てくる。 スーは長年エリザベスが務めていたエクササイズ番組を降板させたテレビプロデューサーの**ハーヴェイ**[^1]([[👤デニス・クエイド]])に気に入られ、エリザベスの後釜へ。あれよあれよというまにスター街道を駆け上がるスーだが、次第に「サブスタンス」利用のルールを破るようになり、母体であるエリザベス共々身体に変化が訪れる。 ### 美醜のゲーム 敗者がいなければ勝者もいない。ふたりだからこそ比較が成り立ち、そこに勝敗が生じる。 エリザベスとスーは、どちらもテレビ業界で身体の美しさを競うゲームに身を晒す。それは同時に、人々から愛されるゲームでもある。だから中毒性を伴い、一度手に入れた勝利(成功)に囚われてしまう。 しかしそのゲームには欠陥がある。社会に根づいた[[エイジズム]]が、同一人物が勝利し続けることを阻害するのである。「若ければ若いほど美しい」という社会的偏見が、否応なく歳を取り続けてしまう人間の身体と衝突する。 男性であるハーヴェイは汚らしい食べっぷりを見せつけながらエリザベスに「50歳で止まる」と告げる。 ハーヴェイ自身、おそらくさらに年を召していて、それ相応に皺が刻まれている関わらず、女性であるエリザベスにはもうこの業界で勝者として君臨し続けることはできないのだと告げるのだ。 若返らなければ再び勝者になれない。彼女の部屋の花束に付されたメッセージに書かれているように、彼女の栄光はもはや過去形でしか語られない。 それでも勝者であること=みんなから愛されることの中毒性に囚われたエリザベスは、どう考えてもヤバい薬物である「サブスタンス」に手を出すことになるのだ。 分身することによって確かにスーはテレビ業界の勝者となる。 しかしスーと生活と栄養を共有し合うエリザベスの方はどうだ。勝者であること、愛されることを満喫するあまり、「サブスタンス」のルールを破るスーによってエリザベスの身体はどんどんと変容していく。 スーもまた自分自身であるのだから、という想いと並行して、スーと比較して自分は敗者である、という劣等感が次第にエリザベスに芽生えていく。==ひとりの人物のなかに本来ならばあり得ない勝者と敗者が生じてしまったのだ==。 だからエリザベスは「サブスタンス」をやめられないまま、スーに栄養を与える母体であるにも関わらず、暴飲暴食によって彼女を妨害することになる。 こうしてエリザベスとスーは、互いの足を引っ張り合う関係へと発展する。 一見すると構図としては「女の敵は女」というものに見えるかもしれない。 しかし、そんな諍いを招く基盤にあるものは、女性は若くて美しいことこそが素晴らしく価値があるのだと重宝する性差別が深く根付いたこの社会だ。そして、そんな社会を維持するのは、資本主義の(やはり)勝者である富豪たち(映画終盤に出てくるスポンサーの男たち)なのである。 ### 「こいつら全部食い殺せ!」 そんな社会の構造が曝け出された先に待つクライマックス。個人的にはそこに[[🎞️『桐島、部活やめるってよ』]]を連想した。 テレビ業界だろうがスクールカーストだろうが、敗者上等だ。==一切合切をジャンル映画の文法に則ってメチャクチャにしてやれ==。 スクリーンには今年観た中で一番の阿鼻叫喚が映し出されるが、私は哀しさからか快感からか、不思議な涙が抑えきれなかった。 ## 情報 ![[🎞️『サブスタンス』#予告編]] ![[🎞️『サブスタンス』#主要スタッフ]] ![[🎞️『サブスタンス』#関連リンク]] [^1]: 多くの女性に対して性暴力を働いたことが発覚し、[[MeToo]]運動が世界的に発展していくきっかけを作った元映画プロデューサーの[[👤ハーヴェイ・ワインスタイン]]のパロディと思われる。