# 2025-06-29 [[🎞️『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』]]を観る
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### 殺人教師
2003年。小学校教師である**薮下誠一**([[👤綾野剛]])は担当した児童の両親から虐待の嫌疑をかけられる。
その主張は薮下にはまったく身に覚えのないことであったが、学校としては謝罪をすることでその場を収めようと奔走し、結果として薮下が体罰を認めて謝罪することに。
ところがそのことがマスコミに伝わると、「教師によるいじめ」「殺人教師」などといった形で週刊誌でセンセーショナルに喧伝され、薮下は次第に追い詰められていく。
そして舞台は児童の[[PTSD]]による損害賠償を求める裁判へ――。
本作ははじめに児童の親である**氷室律子**([[👤柴咲コウ]])の供述から始まり、そこで薮下がどれだけ苛烈ないじめをしてきたかが描写される。
続いて薮下がそれを「でっちあげ」であると述べ、今度は薮下の供述が始まる。
同じ事象を複数の人物が異なる視点で語り、その食い違いからミステリーを演出する、いわゆる[[🎞️『羅生門』]]スタイルの語り口だ。余談だが、主人公の名字が「薮下」なのは[[🎞️『羅生門』]]の原作が[[📘『藪の中』]]であることから来ているのだろうかと思ったりした。
ここでの悪の教師を演じる[[👤綾野剛]]と、一転して普通の教師を演じる[[👤綾野剛]]のギャップがたまらない。
いかにも[[👤三池崇史]]監督らしい、露悪さを全開にして人種差別と体罰を振るうリスキーな役だっただろうが、見事に好演している。
### 物語を使いなびかせる者
本作を観ながら私の脳裏に浮かんでいたのは[[📘『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』]]だった。
薮下はどうして自分の言う事を世間は信じてくれないのかと嘆く。しかしそれも当然だ。人は善と悪の闘いの物語を好む。そして、教師よりも親を経験する人のほうが多数派のため、親が善の側に立つ「殺人教師」という物語こそを世間は信じやすいのだ。
虐待を訴える**氷室律子**([[👤柴咲コウ]])は心理学を専攻していたという描写があり(映画を観るとその言葉もどこまでが本当なのか分からないが)、上記のような構造を理解した上で「でっちあげ」=物語を語っているのではないかと思った。そう考えるとますます恐ろしい、そして現代的な話である。
……そして、この映画もまた、「物語」である。
商業映画というメディアに載せられ、全国の劇場でかかっている、物語なのだ。
そう考えると本作は明確に薮下を善、氷室を悪という構図で描いていることに気づく。また、弱い立場にある一教師が、学校という組織によってトカゲの尻尾切りのように切り捨てられるという物語構造は、多くの人にとって共感を得やすい。故にその救いには溜飲が下がる思いである。
仮に真実というものがあるとして、物語はそれを我々に分かりやすく伝達するよう加工し、そして作り手が意図した通りの感情を抱かせる。
だからこそ、自ら「でっちあげ」を名乗る本作に、これもまた「でっちあげ」なのではないかという思いを抱いた。
>[!quote]
> 物語の語り手を絶対に信用するな。
>
> 引用:[[📘『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』]]
真実とはなんとも難しいものだ。
冒頭の字幕から「真実」という言葉を揮うこの物語に、疑いの目を向けてみるのも本作の楽しみ方のひとつではないだろうか。
## 情報
![[🎞️『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』#予告編]]
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