# 2025-07-15 [[📘『プロジェクト・ヘイル・メアリー』|📘『プロジェクト・ヘイル・メアリー 下』]]を読む(ネタバレあり)
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## 感想
### ネタバレ、ネタバレ、ネタバレ!
[[2025-07-10 📘『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』を読む|上巻の感想ノート]]ではまだ途中ということと、どうせ下巻の感想ノートも書くということで、一切ネタバレをせずに雰囲気だけを語った。
だから、ここでは書くぞ。
そのうえで再度警告しておこう。==本作は「何もわからない状況から徐々に主人公の置かれた状況が分かっていく」というミステリ的構造と、その分かっていく過程で生じる物語的飛躍に主人公と一緒に驚くことが肝である作品==だ。
犯人当てゲームやどんでん返しといった類ともまた異なるタイプのネタバレ厳禁な作品であり、私としても興味があるならば主人公同様「何もわからない状況」から本作に触れることをオススメしたい。
### 科学は人類を救う、質問?
起きるとそこは密室。自分以外にはふたつの遺体。そしてなんの記憶もない。自分の名前も、仕事も思い出せない。
本作はそんな「何もわからない状況」からはじまる現代パートと、徐々に思い出していく形で語られる過去(地球)パートとを交互にしながら序盤は進行する。
自らが科学者であることを思い出した**ライランド・グレース**が科学的知識を駆使しながら状況を少しずつ理解していく過程も楽しければ、過去パートで明かされる太陽系と人類の危機のスケールのデカさに驚かされる。
**アストロファージ**と名付けられた地球外生命体が太陽光を食べてしまい、まもなく地球は氷河期に突入してしまう。のこり数十年のタイムリミットで解決策を見つけなければならない。
そのための武器は科学だ。
アストロファージそのものがとてつもないエネルギー源になることが調査によって解明される。
また、太陽系から観測される多くの恒星が同じくアストロファージによって明るさが失われているなか、くじら座タウ星(タウ・セチ)だけが影響がないことが確認される。きっとそこにはアストロファージによる被害を回避するヒントがあるはずだ。
そこでアストロファージが持つ膨大なエネルギーを利用してタウ・セチに向けて調査用宇宙船を飛ばす。その宇宙船の名前がタイトルにある**ヘイル・メアリー**だ。この船名はアメフト用語が元で、試合の終盤にリスクの高いパスを投げることを意味する。まさしく一か八かの飛翔である。
そしてグレースは、その宇宙船の搭乗員の一員だったのだ。
>[!check]
> 余談であるが、本書を読んでいる時期に鑑賞した[[🎞️『F1/エフワン』]]でも同様に一か八かの賭けという意味合いで「ヘイル・メアリー」の言い回しが用いられており「おっ」となったのであった。
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> - [[2025-07-06 🎞️『F1/エフワン』を観る]]
そういった背景をグレースは少しずつ段階的に思い出していくのだが、その思い出した情報がヒントとなって目の前の危機を乗り越えていく。
そして上巻の中頃に差し掛かったタイミングで物語は大きく飛躍する。それこそが、恐らく多くの既読者が「ネタバレ厳禁」と口酸っぱく言っているところだろう。
グレースは、まったく異なるテクノロジーから成る宇宙船に遭遇するのだ。
### フィストバンプ
「うっそだろう!」とグレースは叫んだ。読んでいる私もたぶん口走った。これってそういうジャンルなの?!
宇宙船には地球とは異なるテクノロジーを持つ知的生命体――異星人が乗っている。地球人類にとってのファーストコンタクトだ。
それまでの話では、謎の答えはすべて過去にあった。グレースがなぜヘイル・メアリーに搭乗しているのかは、その目的は何なのかといったミステリーは、すでに答えが確定した過去だ。それはグレースが思い出すことで解が得られる。
しかしここからは違う。異星人について、人類は過去に何の探求もしていない。過去に答えのない謎だ。だからこれから知る必要がある。どうやって? ――科学でもって、に決まっている。
こうしてグレースが未知の異星人となんとかコミュニケーションを試みるフェーズに入ると次々と新たな謎、それに対する検討、解決策の行使という手順を踏みながら、少しずつ互いのことを理解していくことになる。
ここがもう、べらぼうに面白い。ここまで到達したら上巻は一気に読み進めてしまうことだろう。
相手はエリダニ40星系からやってきた宇宙人。地球人と同様にアストロファージの影響を受け、その解決策を求めてタウ・セチへと宇宙船を飛ばした。
その宇宙人をエリディアンと名付けたグレースは、先方の技術を駆使して宇宙船をドッキングする。そうしてエリディアンの一個体――**ロッキー**と邂逅する。
ロッキーとの交流はまさに[[センス・オブ・ワンダー]]と呼ぶにふさわしい、リアリティとファンタジーの合間にある「ありえそう」な出来事の連続でワクワクされられた。
文化や言語の問題を解決していったグレースとロッキーは、共通の目標であるタウ・セチとアストロファージの謎を解明するために、バディとなって調査を進めていくこととなる。
多くの危機を乗り越えながら、互いの星を救うための方法を見つけ出すという展開が中盤から終盤にかけて描かれる。
一人だけだとその方法は見つけられなかったかもしれない。しかし地球人類の科学とエリディアンの科学が組み合わさって、ついにその方法はついに見つかる。
喜びを分かち合う二人。エリディアンの身体の構造から握手ができない彼らの友好は、フィストバンプ(グータッチ)のアクションにより示されるのだ。
### ぼくは臆病者だ
しかしその解決方法にはひとつのミスがあった。
二人が別れたあと、それにいち早く気付いたグレースは取り返しがつかなくなる前に対応できた。しかしロッキーは?
この終盤、ロッキーの船が停止してしまったことにグレースが気づいてからは読んでいて涙ボロボロだった。
少しずつ取り戻しつつあった記憶の中で最後に彼が思い出したことは、彼はもともとヘイル・メアリーの搭乗員となるつもりはまったくなかったということ。むしろ、地球上で彼が最高の適合者となってしまってからも、死への恐怖からそれを拒否しようとまでしたのだ。
人類の滅亡を阻止することよりも自らの命を選び、「ぼくは臆病者だ」とモノローグで語ったグレースが、それでも最後の友人であるロッキーのために命を投げ出すことを選ぶこのシーンはあまりにも熱かった。
### 第∀ℓ章
本書の最後の最後。教師となった主人公と、その言葉を受けて挙手をする生徒という構図。
これは明らかに[[🎞️『オデッセイ』]]、つまり[[👤アンディ・ウィアー|著者]]の処女作である[[📘『火星の人』]]の映画版で追加されたエピローグのオマージュだ。
思わずニヤリとさせられる(同時に泣いていることは言うまでもない)と同時に、来年に控える映画版でもこのセルフオマージュを踏襲するのか、また別の終わり方を用意するのか、がぜん楽しみになってしまった。
## 情報
![[📘『プロジェクト・ヘイル・メアリー』#関連リンク]]