# 2025-07-23 [[📘『中高生から考える死刑制度 死に値する罪ってなに?』]]を読む
![[📘『中高生から考える死刑制度 死に値する罪ってなに?』#概要]]
## 感想
### 国際情勢に反して日本に死刑制度が存置されている意味を考える
昨年の[[静岡一家4人殺害事件]](通称[[静岡一家4人殺害事件|袴田事件]])における再審での無罪判決をきっかけに改めて死刑制度について調べてみようと手に取った。
「中高生から考える」とだけあって門外漢にも読みやすい内容ながら、死刑制度にまつわる議論が広範に扱われており得られる知見が多かった。
著者は「はじめに」で死刑制度について否定的な意見を持つと宣言したうえで、それでもあくまでデータや資料をもとに事実関係に基づいた議論をしようという誠実さを感じた。
### 一番の関心は情報公開の問題
法学に明るくない私のようなものからすれば、「死刑制度の是非」の話題となるとだいたいが「冤罪」と「被害者遺族の感情」の議論に終止してしまいがちなところだ。
本書でも第四章でこのふたつの視点について語られているが、その前段に、「死刑と情報公開」という問題に一章を割いている。本書が一番語りたいところはここではないかと思った。
日本における死刑制度は秘密主義の側面があった。それを象徴するように、1993年3月26日の死刑執行は3年4ヶ月ぶりということもあって、その翌日に各マスコミは特ダネとして報じたほどだ。
現在のように死刑執行後に法務大臣が臨時記者会見を開き各種情報を発表するようになったのは2007年12月になってからとのこと。
それでもなお死刑制度に関して我々が得られる情報は乏しいという。
2018年7月6日、[[オウム真理教]]事件に関わる幹部7人の死刑執行がなされたが、当時法務大臣の[[👤川上陽子]]氏は多くの質問に対して「お答えは差し控えさせていただきます」と説明を避けた。
>[!cite]
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> 本書によればこの記者会見で計15回「差し控える」と述べたようだ。
死刑制度にまつわる情報が乏しければ建設的な議論も難しく、だからこそ誰もが語りやすい「冤罪」と「被害者遺族の感情」という二大テーマで賛成派と反対派がシーソー遊びをしている印象だ。
5年ごとに行われる死刑制度にまつわる世論調査では、1999年頃より8割前後が死刑存置に賛成の選択肢が選ばれ続けている。
最新の調査は本書が出版された後、2025年3月14日に公開された。そこでは前回比で死刑廃止が7.5%増と大幅に増えている。
この増加には[[静岡一家4人殺害事件]]の再審無罪の影響もあるだろうが[^1]、ちょうどこのタイミングで世論調査の方法が変更されており、「わからない・一概に言えない」という中間的選択肢がなくなった影響のほうが大きそうだ。この形式の変化により前回調査との正確な比較ができないことに歯がゆく思った。
>[!check]
> この世論調査の変遷についての話が面白かったため個人的に調べたことをもとにノートを作成した。
>
> - [[死刑制度の賛否に関する世論調査]]
私自身はどちらかといえば死刑制度に反対の立場である。しかし、賛成/反対を声高に叫ぶ前に、まずは情報開示を進めよという本書の議論は正しく筋が良いと感じた。
## 情報
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[^1]: 再審無罪が言い渡されたのが2024年9月26日、世論調査実施が2024年10月。