# 2025-07-26 [[🎞️『IMMACULATE 聖なる胎動』]]を観る ![[ネタバレ#^denger]] ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『IMMACULATE 聖なる胎動』観た。処女懐胎の神秘と望まない妊娠の恐怖。暗い産道を悪魔に追われながら這い出て産声を上げたこの世界もまた地獄。ラストショットは今年映画館で観た一番の地獄。大傑作。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1948975599634006337) ### フェミニズム×宗教スリラー これはとんでもなく刺さった映画だった。 スリラー・ホラー映画として十分に怖いことはもちろんのこと、「処女懐胎」という大ネタからアメリカの政治的問題である「中絶の権利」とキリスト教右派の衝突を戯画化する試みが面白い。 そして最後には「クソッタレ」というセリフとともに女性の身体を軽んじる「この世の中」そのものに中指を立ててみせるのだ。 舞台はイタリア。アメリカからやって来た**シスター・セシリア**([[👤シドニー・スウィーニー]])が修道院での生活に慣れた頃、彼女が処女であるにもかかわらず妊娠していることが発覚する。 この修道院では多くの年老いたシスターたちを若いシスターが介護し最期を看取るのが日常風景だ。時代と伝統が凝り固まった閉鎖空間である修道院では原理主義的なカルト化が進んでおり、処女懐胎したセシリアへの異常な崇拝が逃れられない恐怖として彼女を追い詰める。 セシリアがアメリカ出身でイタリア語に不慣れであるという設定も効いている。修道院自体は女性社会ではあるが、それでも妊娠した彼女が孤立を深めるのは言語の壁も影響している。カルトに言葉は通じないのだ。 ### 再臨 以下、ネタバレ。本作のミステリー要素の核心部分と結末(というかラストショット)について触れる。 本作のラストショットこそが一番語りたい部分なのだが、そのためにはセシリアが処女懐胎した理由の説明する必要がある。 セシリアが身ごもったのは、磔刑にされたイエス・キリストのDNAを元に作られたクローンだった。 「処女懐胎」という現象の時点で聖母マリアを想起させ、キリストの再臨という物語性を帯びるというのに、その子はまさしくキリストそのものなのだと発覚するのである。 それを企てた**テデスキ神父**([[👤アルバロ・モルテ]])を中心としたカルト集団と化した修道院全体がセシリアに要求する「産め」という圧力。聖母に選ばれなかった者の絶望。カルトに反抗した者への罰。 そうした周囲の環境すべてがホラーとして見事に機能しセシリアを追い詰めていく。 そしてクライマックス。臨月を迎え、いつ出産してもおかしくない身体でありながら、セシリアは陣痛をこらえ、ときに破水しながらも復讐に走る。 セシリアは首謀者全員を殺害し修道院地下にあるカタコンベ(地下墓地)から逃走を試みるが、テデスキ神父がそれを追いかける。彼はセシリアにより火あぶりにされたがなんとか生きのび、焼けただれた顔はまるで悪魔のように見える。 テデスキ神父についにとどめを刺した彼女はカタコンベを抜ける。ここから長回しのラストショットがはじまり、これこそが今年目にした一番の地獄だった。 暗いカタコンベから外へ抜け出て「クソッタレ」と毒づくと、すぐさま出産が始まる。 立ったままの娩出。その激痛に泣き叫ぶ血まみれのセシリアの顔をアップで映す。 なんとか子供を娩出すると胎児と繋がるへその緒を噛みちぎる。 胎児の産声もどこか奇妙な響き方をする。 セシリアは周囲を見渡して手頃な石を見つけると生まれたばかりの胎児をそれで殴殺する。 ここまでがワンショットだ。セシリアは復讐を成し遂げ、望まない妊娠により産まれた忌み子を殺して映画は終わる。 しかし、このラストショットはもう一つの意味がある。それはセシリア自身の再臨だ。 セシリアが修道女となったのは、幼き日に河で溺れ臨死体験をしたからだ。彼女は自らが生きのびた意味を求めて信仰の道へと進んだのだった。「信仰心を持たないセシリア」はあのとき河で死んだのだ。 そして、この映画で描かれる偽りの聖母として崇め奉られる恐怖体験をしたセシリアは今度は信仰心をかなぐり捨てることになる。ここに「信仰心を持たないセシリア」が再臨する。 そう考えると、暗く曲がりくねったカタコンベはずばり産道だ。そこから這い出たセシリアこそがまさにこの世に新たに産まれた胎児であり、だから彼女は血まみれになりながら陣痛の痛みによる悲鳴という産声を上げ、へその緒を切るのだ。 この世界は今なお中絶の権利を求めて闘わなければならない、女性の身体が軽んじられる地獄だ。 そんな地獄に産まれたことに対して「クソッタレ」と毒づき、彼女自身が強制的に産み落とさせられた神の子=敵対者(キリスト教右派)が望むものを殺める。そんな目を覆いたくなるような光景に私は不謹慎にも爽快感を覚えてしまった。 自らの誕生そのものを呪いながら、それでもこの地獄で子を産むことをめぐって闘うことになるであろうひとりの女性の姿。「処女懐胎」をテーマとしたジャンル映画として、相当に不謹慎かつ悪趣味ながら、完璧なフィナーレだと私は思った。 ## 情報 ![[🎞️『IMMACULATE 聖なる胎動』#予告編]] ![[🎞️『IMMACULATE 聖なる胎動』#主要スタッフ]] ![[🎞️『IMMACULATE 聖なる胎動』#関連リンク]]