# 2025-08-11 [[🎞️『サタンがおまえを待っている』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

### [[📍新宿シネマカリテ]]がわたしを待っている
先日、来年1月12日の閉館がアナウンスされた[[📍新宿シネマカリテ]]での鑑賞である。これまで数多くの作品と出会った劇場であり淋しい。閉館の日までちょくちょく通いたいと思う。
というわけで[[🎞️『サタンがおまえを待っている』]]、一冊の本をめぐるドキュメンタリーだ。
その本のタイトルは『ミシェル・リメンバーズ』。ミシェルという女性が精神科医であるパズダーのセラピーを受ける中で、幼少期に悪魔崇拝者たちのカルトの中で虐待を受けた記憶を思い出したといいい、その記憶を克明に記したものである。
これが1980年に発行されると北米全体でパニックが生じる。この本をきっかけに多くの[[悪魔的儀式虐待]]のサバイバーを名乗る者がでてきて、そうした事件に対応するためのセミナーが全国で開かれ、今も多くの子供が行方不明になり多くが殺害されると信じる者がいるという。
しかし、FBIなどの統計ではそのような事実は認められないという。そもそもミシェルのケース自身、彼女の来歴を調べた者によれば怪しいところが多すぎるし、彼女の妹も疑いの目を向けている。ミシェル氏は存命だが、本作の出演は拒否したようだ。
### 物語の語り手(ストーリーテラー)を絶対に信用するな
この映画を観ていて思い出したのが[[📘『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』]]だった。
彼女が語ったことは、悪魔崇拝者という敵対者を置き、子供の安全というすべての親の不安感を刺激するようなスリリングな物語だ。
ミシェルとパズダーのふたりは当時キャンペーンで北米を回り、テレビ番組などのメディア出演もあってその物語は(現代のインターネット時代ほどではないだろうが)急速に広がった。そして多くの人々がこの物語を信じた。
実際には悪魔崇拝者による児童虐待という事件など起きていなかった。それにもかかわらず、この物語を多くの人が信じたことで復数の冤罪が生じ、セミナー主催者やセラピストたちが不当に儲け、警察官の多くの時間が無駄になった。
「出来が良い物語」は、その質が高いからこそ大きな実害を現実にもたらすのだ。
>[!cite]
> 
> 引用:[Keisuke Honda(@kskgroup2017)さん / X](https://x.com/kskgroup2017)
>
> ちょうど数日前、歴史学研究に反する「物語」を自信満々に語るストーリーテラーの動画を引用し、それを「信じてる」とポストした著名人がいた。彼は批判を受け、自ら資料をチェックすることでこの物語から脱したようだが、誰であっても(著名人でも、私でも、あなたでも)物語に容易に取り込まれかねないことを示す分かりやすいケースだ。
物語がエビデンスを覆い隠し、その物語を信じた人々が暴走したことで生じた事件や騒動は数多い。[[ピザゲート陰謀論]]に基づく銃撃事件、不正選挙を信じた[[👤ドナルド・トランプ|トランプ]]支持者による2021年の合衆国議会議事堂襲撃事件、また日本では[[👤暇空茜]]氏に扇動された者たちによる女性支援団体への嫌がらせについては個人的に外すことはできない。
インターネットによって物語がかつてないほどの勢いで流通し、[[ポスト・トゥルース]]の時代と呼ばれる現在、その件数はますます増えているといえるだろう。
そんなふうに冷静を装ってみせたところで、私もそのような物語になびかれ、転び、害をなす存在になってしまう可能性はいつだってある。
本作を観て学ぶべきことは、物語を物語る者/信じる者/信じない者同士で互いに相手を悪魔化するのではなく、常に物語に対して疑いの目を向けることを怠らずに抵抗し続けることなのだと思った。
>[!check]
> [[📘『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』]]はこのサイトで頻出になるかも。以下の映画でも言及した。
>
> - [[2025-06-29 🎞️『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』を観る]]
## 情報
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