# 2025-08-16 [[🎞️『キムズビデオ』]]を観る ## 感想 劇場で鑑賞。  ### 「映画の声が聴こえる」なんていうやつは狂人 映画オタクがいう。「映画の声が聴こえる」と。 人はそれを妄想と笑うだろうが、この映画の監督たちにはきっと映画の声が聴こえていたのだろうと思う。それくらい、この映画で彼らがとった行動はめちゃくちゃだ。 配信サービスへの以降の波に飲み込まれ、2008年に閉店した伝説的レンタルビデオ店の[[キムズビデオ]]。そこで取り扱われていた5万点を超える（しかも公式にソフト化されていない海賊版を多く含む）ビデオはどこへ行ったのか？ その行方を追うドキュメンタリーなのだなと思いながら観ていると、やおらこの監督たちは無鉄砲無計画に行動に移る。 どうやらイタリアのシチリア島にあるサレーミという街に譲渡されたらしいと知るやいなや、通訳もなしに現地へと飛ぶ。 「英語は話せない」と口を揃えていう現地人たちを相手になんとか保管場所に辿り着くとさっそく不法侵入。 そこがビデオにとって天敵である湿気過多な環境であることに怒りを覚え、これらビデオをどうにかしようと奔走するのだ。 [[キムズビデオ]]を運営していた[[👤キム・ヨンマン]]氏に連絡を取り、当時の移譲に関わった人物たちを追っかけてはカメラを向け、どうやらその取引にマフィアも絡んでいたらしいことを知る。 [[👤キム・ヨンマン]]氏曰く「スコセッシ映画のような光景」がそこにあったようだが……とにかく碌でもないことがあったことは察してしまう。 そして最終的には[[🎞️『アルゴ』]]よろしく架空の映画撮影を装って保存場所の撮影許可をとり、その多くを堂々と窃盗してしまう。 そこからの粘り強い交渉の果てにビデオたちどうなったかは……映画を観てのお楽しみ。 ### 文化保存の難しさ 作品を作りたいという人は星の数ほどいる。 しかし、その作品を可能な限り漏れなく保存しようという活動をする人は僅かしかいない。 故に、作品数は年々増えていくのだが、ヒット作や名作と呼ばれる作品以外はじきに散逸してしまう。 これは映画に限った話ではない。あらゆるメディアにおいても同様だ。 なぜそうなってしまうのか。 単純に、物理的に保存するためには土地が必要であり継続的に金がかかるという問題があるだろう。 また、それを再生する機器のメンテナンスも必要だ。これは近年のレトロゲームにおいて顕著な問題で、そもそも保管したものを鑑賞・体験すること自体に大きなハードルがあるとなると保存する意味も減じてしまう。 かくも文化保存とはやっかいで難しい問題だ。そのメディアや作品たちを愛するオタクであるほどそのやっかいさは身にしみて感じることだろう。 そしてやっかいで難しい問題がそこにあると、それを私なら解決できると豪語して支持集めなどに利用しようとする、その価値がよく分かっていない者が現れるというのも世の常だ。 それじゃあどうすればいいのだろうか。 本作の監督たちのように、狂人になるしか道はないのではないか。今の私にはそれくらいしか考えつかない。 そういう意味で本作で描かれたものは、私が考える「本当のオタク」の姿そのものだったのかもしれない。 ## 情報 ![[🎞️『キムズビデオ』#予告編]] ![[🎞️『キムズビデオ』#主要スタッフ]] ![[🎞️『キムズビデオ』#関連リンク]]