# 2025-08-17 [[🎮️『終ノ空』#『終ノ空remake -2025ver-』|🎮️『終ノ空remake -2025ver-』]]をプレイ
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## 感想
[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』]]の15周年ボックスに収録された[[🎮️『終ノ空』#『終ノ空remake -2025ver-』|🎮️『終ノ空remake -2025ver-』]]をプレイ、攻略完了した。
オリジナル版は未プレイ、姉妹作である[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]は10年以上前にプレイしたきりなので、さてどんなものかという感じで始めたが、なかなか印象深い一作であった。
このまま流れでオリジナル版[[🎮️『終ノ空』]]をプレイしてリメイク前後でどのような違いがあるのかを堪能しようかと思うが、一旦オリジナルをプレイする前にこのリメイク版について簡単に感想をまとめる。
……先に釘を差しておくと、本作の深い部分での私の解釈についてはここでは語らないこととする。そこに触れようとすると一生この記事を公開できないからね。しょうがないね。
### 問いと答え
プレイしながら特に思ったことは、==本作はひたすらに問答が繰り返される==な、ということだ。
問い、それに答える。その繰り返しが登場人物同士の対話のかなりの部分を構成する。
本作の主題である**終ノ空**という事象によって引き起こされる特殊な状況に対する登場人物の葛藤も面白い。しかしそこは[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]の記憶もあり、その繰り返しである(そもそもは[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]こそが後発なのだが)と感じた。
一方、何者かに問われ、それにどう答えようかと葛藤することは[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]にも過分にあったかもしれないが、今の私には新鮮に映った。10年前から興味関心が移り変わったからこそそこが目についたかもしれない。それでも本作がひたすらに問答が繰り返される作りであり、そこが特徴的な作品であることは間違いない。
問答の内容も面白いが、加えてこの問答が作劇上どのように生じ、読み進める面白さに寄与するのかという構造の部分も面白い。
第一に、章ごとに主人公(作中の言葉で言うところの「**主体者**」)が入れ替わっていく構成。
プレイヤーは主人公の一人称的視界と心情を綴るテキストによって物語を読む。問いに答えるときに生じる葛藤は人物ごとにバリエーションがあり、その人物がどう悩むか、どう答えるかに違いがあるから面白い。
仮に本作が一人の主人公がその人物だけの感性でひたすら問いに答える構成だとしたらかなり食傷する内容になったことだろう。
葛藤にバリエーションを生じさせるのはその人物のプロファイルだ。
本作がセックスを表現することを本質的に内包するエロゲーである以上、性別が大きなファクターであることはいうまでもない。
それに加えて重要と感じたのが、その人物のこれまでの人生で蓄積されてきた**幸福値**のようなもの。舞台となる1999年7月に至るまでに体験した幸福の量(と、それと逆相関の傾向にある不幸の量)によって考え方は変わる。
その違いが分かりやすいのが「世界の終わり」を目前にしたときにその人物が考えることだろう。ある程度の幸福値を持つ者はこの世界の終わりを信じない、あるいは回避したいと願うだろうし、一方で低い幸福値を持つ者はこんな世界は終わってしまえばいいと投げやりな思いに至りがちだろうと想像がしやすい。更に言えば、短くない人生で今がまさにどん底の幸福値であるような人物がどのような考えに囚われてしまうかを本作は手抜かりなく描き出してみせるのだ。
第二に、問いかける者の存在。
本作の中心人物にして主体者とならない唯一の登場人物が**音無彩名**([[👤北大路ゆき]])だ。
彼女はいわゆる「電波系」ヒロイン。神出鬼没で昼夜問わず学校の至るところで姿を見せては、登場人物たちに奇っ怪な問いを投げかける。まるで[[👤ソクラテス]]のように。
一にして全。まるでこの世界で起きる事象のすべてを把握したうえで、各人物を試すかのような問いの数々に各主観者は迷い、戸惑い、迷走することになる。
そんな彼女の突飛な言動にある程度まともについていけるのは、第一の主体者である**水上行人**([[👤小次狼]])くらいだ。
彼の高校生離れした読書遍歴が、彼女の捉えどころのない言葉の端々をキャッチして彼の知識と言葉に引き寄せることができる。
そんな彼は、現国が嫌いだという。あるテクストの解釈において作問者(問いかける者)が用意した答えに疑問を持つからだ。彼は用意された答えに飛びつくことなく自分の頭で考え、自分の解釈を大切にするタイプだ。
そんな彼が最初の主人公であることで、本作を通じて語られること、考えられることの基本的なパターンを押さえることができる。この練習がゲーム序盤に置かれていることが、後半にまで効いているように感じた。
もう一人、問いかける者として挙げられるのは**間宮卓司**([[👤佐山森]])だろう。
彼自身は彩名ほどぶっとんだ存在ではないのだが、それこそ[[👤ソクラテス]]の[[ダイモーン]]的存在を背後に抱えており、そちらが彩名並みにぶっ飛んだ存在だからこそ問いかける者としての高い強度を持つ。
多くの者は、それこそ主体者となれないモブたちは、彼の言葉と問いを真に受けてしまうことで[[カルト]]化してしまう。逆に、その言葉と問いに疑問を持つことができた主体者たちが彼と対峙することとなる。
### 救世主ではなく、偶像崇拝者としての卓司への憧れ
卓司の話が出てきたので彼の話をしたい。何を隠そう、本作で個人的に一番好きなキャラクターは彼だからだ。
彼は世界の終わりが囁かれる混迷の中で生じたある事態と、それに伴う怪奇現象を前に発狂する。発狂した結果、目の前に現れたのが彼にとってのダイモーン的存在――**リルル**だ。
魔法少女リルル。テレビアニメのキャラクター。神さまの夢を集めまわった彼女は魔法の国へと帰ったという。しかし、それはテレビが吐いた嘘だと彼は確信し、隠れ家の壁に描いたリルルの絵に日々語りかける。
正直、この行動は私にとって身に覚えがありすぎる。私も、私にとっての[[炎道イフリナ|精霊的存在]]に日々語りかける。もはやそこに原作なるものは何の重みも持たない。あくまで私が、私の考える彼女に、語りかけている。その語りに返答が生じる日を心待ちにしながら。
だから卓司の描写はまるで作品側から指をさされている気分であった。
おそらく[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]でも同じようなことを思ったことだろうが、何せそれから10年以上もの年月をその想いを発酵(腐敗)させることに費やしてきたからこそ、彼の行動の「イタさ」と「痛さ」をより切実に感じてしまったように思う。
そして卓司はついにリルルの声を聴く。私がいまなお成し遂げられていないことを彼は成し遂げる。ここは素直にリスペクトだ。私は彼を祝福する。
>[!cite]
> ![[『終ノ空remake -2025ver-』リルル.webp]]
> 引用:[[🎮️『終ノ空』|🎮️『終ノ空remake -2025ver-』]]
>
> 個人的に、本作においてもっとも感動的で奇妙なシーンだ。
ところで二次元の美少女が、それを創作した他者を介さず直接「私」に語りかけてくる状況とは、おそらく次の2パターンだと私は考える。つまり、発狂による強固な妄想か、魔の囁きかだ。
彼の場合は本作の描写から考えて後者だろうと思う。「魔」なるものが悪魔だか精霊だかは知らないが、ともかくこの世のものではない異世界・異次元的存在が彼が崇拝するリルルの姿を借りて語りかけてきた。その声を聴き、リルル=魔と魂の調律をするという[[イニシエーション]]を通じて、彼は救世主として覚醒する。
私は救世主にはなりたくないが、もしも[[炎道イフリナ|彼女]]が私に語りかけてくれるのであれば、救世主という役割を演じてもいいかもしれないな、と強く感じたのであった。
### 総括
まずは何より[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』]]を再プレイしたくなった。そういう意味では、[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]の周年記念ボックスに収録する意義を感じる作品である。
そもそも[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]の存在を前提としたリメイクであるという特殊性が本作にはある。ずばり[[🎮️『素晴らしき日々~不連続存在~』|🎮️『素晴らしき日々』]]の素材と思われるものがさりげなく本作で現れたときの感動はファンサービス以上のものがあった。
本作のクリア後、あらためて[オリジナル版の公式サイト](https://www.keroq.co.jp/product/sora/top.html)を覗いてみたら、リメイク版との大きな違いとしてひとつの章がリメイクに際して追加されていることに気づいた。
プレイ中はその追加された章こそがもっともキャッチーで人気が出そうだなあと感じていたので、そこに時代性を感じたりした。
そんなわけで、続けてオリジナル版をじっくり堪能しようと思う。
こちらは私が二次元美少女に溺れる前に作られた作品であり、故に卓司の描写については色々と思うところが生じそうだなと予感している。楽しみだ。
## 情報
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