# 2025-08-30 [[🎞️『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』]]を観る
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

### 同性愛者である異性の友人
自由奔放な女性**ジェヒ**([[👤キム・ゴウン]])と同性愛者の男性**フンス**([[👤ノ・サンヒョン]])、ひょんなことからルームシェアをすることになった二人の友情を13年間を通して描く青春映画だ。
同性愛者である異性の友人。たまにそういうキャラクターを目にすることがある。
自分に性的な感情を向けてこない、それでいて異性の感覚もわかる、相談しやすい相手。フィクションの恋愛においては主人公たちにアドバイスを与える役割として、硬直した物語を前に進めるのに都合の良い、理想化された属性として描かれていることが多い印象だ。
しかし、本作のフンスはそのような理想化された同性愛者として描かれない。
彼は彼で、自分の人生や恋愛で手一杯なのである。そんな手一杯の中でなんとか割くことができるリソースをジェヒに向ける、というバランスだ。
ここがなんとも現実味のある親密な人間関係の描写だ。ジェヒとフンス、互いに真っ先に考えることは自分のことだが、それでもすぐに相手のことに気遣うことができる。たとえカッとなって喧嘩をしても、次の瞬間には相手の事情をそれとなく察して、とりあえずちゃぶ台を出して一緒に飯を食う。
そんな関係を見せられると観客として彼らのことを好きにならざるを得ない。
### 誰もが誰かを傷つけ、癒やす
本作を観ながら考えていたことは、もっとも原始的な他者への影響力についてのことだった。
人は生きている限りほとんど自動的に外部に対して影響力を発揮してしまう。
たとえば私という人間も言葉や行動によって、その意図とは関係なく他者に快/不快を与えることがある。
そして、相手に快を与えられるか、不快を与えてしまうか、そのコントロールは大変難しい。それがコミュニケーションというものの困難さであり、私はその難しさに日々悩まされている。
ジェヒとフンスの友情を見てもやはりそこでは互いに快と不快を交換し合っている。
先述の通り彼らは喧嘩もすれば仲直りもする。それでも20歳から33歳まで、そしてその後も長きに渡ってその友情が続いていくだろうと信じることができるのは、当たり前だが交換される快が不快を大きく上回っているからだ。
友人関係だけでない。フンスは母親([[👤チャン・ヘジン]])と微妙な関係であり、かつて母親は息子がゲイであることに気づいてから教会に足繁く通い始めたという過去がある。
この二人の関係も全編に渡って重要となるサブエピソードだ。たとえ親子という揺るがぬ芯のある関係であっても不快が多ければ距離は遠のく。
しかし、相手から与えられる不快を乗り越えてでも相手を理解しようと試みたとき、そこには確実な愛が見出される。個人的に一番落涙したシーンはここかもしれない。
また、母親とのエピソードではフンスが仏文学専攻で[[👤アルベール・カミュ]]が好きだということ、そしてある映画のタイトルが後の展開の前フリになっているという引用の巧みさも味わい深い。
もちろん、不快が快を大きく上回ってしまう関係も描かれる。
中盤、ジェヒの恋人となる**ジソク**([[👤オ・ドンミン]])との出会いはフンスにとっても印象の良いものだったように思う。しかし、時間をかけてコミュニケーションを、つまり快と不快の交換を続けていくうちに彼の独善性が気にかかるようになってしまう。
そしてついに訪れた修羅場では彼のホモフォビアな一面が炸裂する。これには婚約していたジェヒもさすがに我慢できず婚約指輪を投げつけるシーンは、しばらくジェヒらしさが鳴りを潜めていたこともあり映画としても盛り上がるところだった。
ことほどさように人は他人を傷つけたり癒やしたりし合うものだ。
親しくなりたい人には快を、すなわち癒やしを多く与えたいと願うものだが、そううまくもいかないのがコミュニケーションの、そして生きることの難しさだ。
だからといって、快も不快も極力少なくしようとする生き方、つまりこの映画序盤のフンスのような生き方こそが正解であるとは、この映画を観た後となっては決して口にできない。
彼にとってジェヒという戦友との出会いは、人と人がひしめき合う、つまり快と不快の流通が激しい大都会(ビッグシティ)での暮らしにおいて、確実に幸福に寄与したと私は信じている。
ラストの画は[[🎞️『ロボット・ドリームズ』]]と同じ。この空の下に、そういう生き方をしている人は(あなたも私も含めて)たくさんいることを示して終わる。
そんな「ありきたり」にも十二分に耐えうる、高い強度で人間関係を描いた優れたドラマだった。間違いなく傑作だ。
## 情報
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