# 2025-09-04 [[📘『ある映画の異変について目撃情報を募ります』]]を読む
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> ![[📘『ある映画の異変について目撃情報を募ります』#概要]]
## 感想
### モキュメンタリーホラー小説
近頃流行りのジャンルらしいと散々耳にはしていたが、実際に読んでみるのは初めて。
現在映画も公開中の[[📘『近畿地方のある場所について』]]あたりが今最もホットな作品なのだろうが、本作は映画にまつわる異変を題材にしているということで手にとってみた。
映画における[[モキュメンタリー]]はそこそこ観ているため、小説という媒体ではどのような感覚を味わえるのだろうかという興味もあった。
本作はブログの記事、そこについたコメント、SNSの投稿、ネットニュース記事、論文記事、メールなどといった文字媒体からの引用だけで構成された小説だ。
発端となるのはとある映画ブログのレビュー記事。
そこには『ファウンド・フッテージ』というインディーズのモキュメンタリーホラー映画に一瞬だけ出てくる「白い男」の姿が気になった、という記述がある。
しかし、同じ映画を観たという人たちの間で、この「白い男」が映っていなかったという意見が現れ、ブロガーたちが調べていくことになる……といったあらすじ。
>[!check]
> 著者のブログ。まさにこのブログが本作の主な舞台となっている。
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> - [「ある映画の異変について目撃情報を募ります」 7月18日発売!のお知らせ | MOJIの映画レビュー](https://ameblo.jp/moji-taro/entry-12915772165.html)
### 情報の流通は加速して、ヒトの愚かさも加速する
昨今のモキュメンタリーホラーの流行は、インターネットとスマートフォンがインフラとなったことで生じたものと考えられる。
マスメディアに属さない一般の人たちが文章、写真、映像を駆使して自由に情報発信できるようになった、それが当たり前となった時代の怪談だ。
本作では、「映画に映る白い男」という怪談が様々な媒体を横断しながら口コミのように広まり、はじめは東京と大阪でそれぞれ3日間だけ上映されたインディーズ映画が、やがて再上映で盛況を博すまでに至る。
本作の特徴として各文章にタイムスタンプが付されていることで、怪談の広がりの規模が大きくなっていくスピード感が分かりやすいことが挙げられる。数ヶ月、数週間、数日、いやさ数時間でひとつの「ネタ」を消費し尽くす[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]時代のスピード感だ。
その怪談の真相や、恐怖に囚われた人々がどういう末路に至るかは実際に読んで楽しんでいただくとして、個人的には最終章で語られるオチが良かった。はっきり笑ってしまった。
そのオチにはまさにヒトの愚かさが詰まりに詰まっていた。そもそもの「白い男」という現象自体がヒトの愚かさに端を発していたことがやんわりと示されるのだが、このオチに至ってその愚かさは頂点に達した。愚の骨頂というやつだ。映画で言えば[[🎞️『ドント・ルック・アップ』]]を彷彿とさせる。
[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]時代のスピード感に個々人の情報処理はまるで追いつけていない。情報を受けては消費して忘れ、受けては消費して忘れ……それを繰り返すだけでそこから何の学びも得ていない。だから超高速で愚かなことを繰り返してしまう。そんな風刺を本書から感じた。
正直、ホラー小説としてはそこまで刺さる内容ではなかった。しかしモキュメンタリー小説としてはヒトの愚かさを現代ならではの形式で物語化することに成功しており、その方向では大変面白く読むことができた。
本作を足がかりにしてこれからモキュメンタリーホラー小説にどんどん手を出して……いくかなあ?
## 情報
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