# 2025-09-07 [[🎞️『海辺へ行く道』]]を観る ## 感想 劇場で鑑賞。  個人的には大変お気に入りの一作である。 しかし、どこをどのように気に入っているのかを説明するのがなかなか難しい作品で、もっとはっきり言えば自分がなぜここまで本作に魅入られてしまったのか自ら解釈しかねているところもある。宣伝が難しい作品だ[^1]。 舞台は海辺の街。アーティストの移住支援をしており、街を歩けばどこか胡散臭い大人たちがいろんなところにいる。そんな街で学校の美術部に所属する14歳の男の子が主人公だ。 物語はそれぞれサブタイトル付きの三話構成になっている。 さりとてそれぞれの話毎にきちんとオチがついて次の章へ、という感じでもなく、話の区切りは舞台の街における登場人物の出入りを示していると感じた。 そこを指してダラッとした作劇だと言えるかもしれない。だけどこの終わっているんだか終わっていないんだかよく分からないまま次の話へと進む感覚がこの映画特有の空気感を醸しており、このスタイルがだんだん好ましく思えてきたのだった。 テーマらしいテーマもあまり表に打ち出さない。良さげなことを声高に叫ぶこともない。いわゆるメッセージのようなものを投げかけられる気配がしない。 それでも登場人物たちの何気ないように見える生活からは様々なことを感じてしまう。それは劇中のアーティストたちによる奇妙なアートの数々が目に耳に入ってくるからかもしれない。 分からないものを前にしたとに生じる「その意味を読み取りたい、理解したい」という欲求。その引き金となる引っ掛かりが本作には多いように思う。程よい余白が潤沢に存在するのだ。 分かりやすいオチが見えないのもそう、役に立つメッセージが聴こえないのもそう、ただただ<ruby>映画<rt>アート</rt></ruby>が目の前にある。映画鑑賞とは、つまり芸術との対話であるということを強く意識させる作りになっているように思った。 ジャンルはまったく違うけれど、鑑賞中の感覚が近いと感じた映画として私は[[🎞️『ボーはおそれている』]]を連想した。 まるで作り物のような街で、どこか不気味な空気が漂い、章立てされたどのエピソードもその終わりはあっけない。これら映画のスタイルとしての共通点。 また[[🎞️『海辺へ行く道』]]ではバイオレンスなことは何も起こらないけれど、胡散臭さや奇妙さでは案外負けていないのではないか。本作の奇妙さを担う要素を思い出してみると、詐欺師のカップル、静か踊り、廃屋に色を塗り続ける人、認知症を治すケアマネージャー、カナリア笛、最後まで正体不明の野獣たち――挙げていけば枚挙にいとまがない。 それでいて、ホラー映画を期待して[[🎞️『ボーはおそれている』]]を観に行くと面食らうように、キッズ映画を期待して[[🎞️『海辺へ行く道』]]を観に行ってもたぶん面食らうというところも似ている。 つまりはどちらも変な映画である、なんて一言でまとめたくなるところだが、変な映画にも変さの方向性は無限にありえる。その中でこの二作は結構近い方角を向いているように思った。 ……ううん、なかなか本作を観て生じた感動を外部に説明することにうまく機能する言葉が出てこない。ただひたすらに好きという気持ちがあふれるだけだ。ひょっとしたら何かの洗脳を受けてしまったのかもしれぬ。 だからもう一回観に行きたいと思う。その前に原作も読んでみよう。 ## 情報 ![[🎞️『海辺へ行く道』#予告編]] ![[🎞️『海辺へ行く道』#主要スタッフ]] ![[🎞️『海辺へ行く道』#関連リンク]] [^1]: そのせいか私が観た回はそのシネコンで一番大きいスクリーンだったのに公開2週目にしてたったの8人しか入っていなかった。