# 2025-09-09 [[📘『「みんな違ってみんないい」のか? 相対主義と普遍主義の問題』]]を読む
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> ![[📘『「みんな違ってみんないい」のか? 相対主義と普遍主義の問題』#概要]]
## 感想
### 「人それぞれ」という魔法の言葉
「人それぞれ」。便利な言葉だ。普段から応用している。主に[[𝕏]]で。

作品の感想は人それぞれだ。もしかしたらあなたは[[🎮️『RIDDLE JOKER』]]の羽月ルートが好きかもしれない。それはあなたが持つ価値観にこのルートの物語が適合したからなのだろう。そのことは認める。「みんな違ってみんないい」だ。でも私の価値観にはまるで適合しなかったどころか相反するものだった。だから私は、**個人的には**、[[🎮️『RIDDLE JOKER』]]の羽月ルートが大嫌いであると言おう。
>[!check]
> それではここで[[𝕏]]の検索窓に"『RIDDLE JOKER』の羽月ルート"と入れてみよう。怖い。
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> - ["『RIDDLE JOKER』の羽月ルート" - 検索 / X](https://x.com/search?q=%22%E3%80%8ERIDDLE%20JOKER%E3%80%8F%E3%81%AE%E7%BE%BD%E6%9C%88%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%22&src=typed_query)
こんな感じで「人それぞれ」という便利な言葉を乱暴に多用してはいけない。創作物の感想くらいならば読み手の信頼を損なうくらいでそこまで問題にはならないが、こうした[[相対主義]]の便利な側面に普段から頼り切っていると、肝心な場面で致命的な誤りをしかねない。
### 相対主義はポスト真実をのさばらせる?
本題。[[📘『「みんな違ってみんないい」のか? 相対主義と普遍主義の問題』]]は「人それぞれ」論の歴史を追い、その論の考察の果てに「道徳的正しさ」や「正しい事実」を人それぞれ論で語る問題点を挙げていく、主に[[相対主義]]論についての初学者向けの一冊だ。
本書の「はじめに」では[[相対主義]]について「人や文化によって価値観が異なり、それぞれの価値観には優劣がつけられない」と端的に説明する。そういった考え方が「正しさは人それぞれ」「みんな違ってみんないい」といった言葉に表れる。
普段出会わないような他者と[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]を通して出会いやすくなった現在、[[相対主義]]の考え方は処世術的に便利に用いられている。
相手がまるで異なる考え方を持っていたとき、意見の相違をぶつけ合っていたら疲弊してしまう。だけどそこで「人それぞれだよね」と言えば意見の合わない相手からさっさとサヨナラできる。
最近はあまり聞かなくなったが「[[not for me]]」というフレーズもそんな処世術から生じている。「これは私向けではない」というニュアンスは、互いの価値観に優劣をつけることなくただ距離を取ることができる。
便利な上に、正しいっぽい空気もまとえる。
「おまえはああ思い、オレはこう思う! そこに価値観の優劣なんてありゃしねぇだろうが!」と叫びたくなるところだ。「違うのだ!!」とは言わせまい。
しかし異なる意見同士にそれぞれ優劣をつけることはできないという態度を徹底するのはかなり問題がある。両立しない意見の中から一つを選ばなければいけない場面というのは往々にしてあるからだ。
例えば政治とは意見や利害が対立した時にひとつの妥協点や合意点を探る営みである。そういった場では[[相対主義]]的態度は逃げであり思考停止である。
そればかりか、「みんな違ってみんないい」のであれば様々な意見の正しさに差がないということになり、数や権力を持つ側が力任せに物事を決定することを止めることができなくなってしまう。
本書が挙げる例でもっとも極端なものが、[[👤ドナルド・トランプ]]の2017年の大統領就任式における参加人数についてホワイトハウス報道官が語った「過去最大の聴衆だった」という言葉だ。
この発言は[[👤バラク・オバマ]]元大統領の就任式の写真と並べて見ると明らかに聴衆が少ないことから多くの非難を浴びる。しかし、この発言について大統領顧問はテレビ番組で「<ruby>もう一つの事実<rt>オルタナティブ・ファクト</rt></ruby>だ」と述べた。
たとえ明らかな虚偽を指摘されようとも信じたいことを信じる。[[ポスト・トゥルース|ポスト真実]]の時代を象徴する言葉である。
こうした愚をのさばらせないためにも、[[相対主義]]に陥らずに、さりとて暴力に訴えかけずに、共同的に「より正しい正しさ」を作ることについてその方法を知らなければならないと本書はいう。この主張には同意しかない。
全体的に回り道が多くて迷いがちなところが玉に瑕だが、[[相対主義]]を考え直すうえで参考になる一冊だった。
## 情報
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