# 2025-09-20 [[🎞️『国宝』]]を観る
![[ネタバレ#^denger]]
## 感想
劇場で鑑賞。

>[!info]
> ![[🎞️『国宝』#概要]]
### 封切りから3ヶ月半にして
ようやく、である。
ちらりとニュースを見ると興行収入は142億円超え。歴史に残る興行収入を記録しており、公開からすでに3ヶ月半も経過しているにもかかわらず[[📍TOHOシネマズ 日比谷]]で最大の座席数を誇るスクリーン1はほぼ満席。
これが社会現象というやつか、と圧倒された。
今更の鑑賞となった理由をおさらいしよう。
私は[[👤横浜流星]]のファンなので彼が出演しているならば基本的に観逃せない、というテンションだった。しかし、今年の6月は体調不良などでバタついており観に行けなかったのである。
そうこうしているうちに社会現象化し、7月には「この調子ならば年中はやっているだろう」と判断して、他の新作映画とはしごしやすいタイミングを伺っていた。
至るところでたくさん上映しているからと言っても3時間という上映時間の本作をスケジュールに組み込む機会はなかなか訪れなかった。
しかし今回、上映館の少なめな[[🎞️『愛はステロイド』]]とはしごして観やすいのが本作だったということで、ようやく白羽の矢が立ったのであった。
### 人生の浮き沈み
本作はひとりの歌舞伎役者の人生をじっくりと描く一代記だ。
そうは言っても175分という尺は、通常の映画としてはかなり長い部類だが、ひとりの人生を収めるにはあまりにも短すぎる。
大きな事態が生じたことについて大した説明もなく観客に受け入れさせながら進行する剛腕な編集に、原作を読んでいなくともダイジェスト感を覚えたことは間違いない。
しかし、映画終盤に人間国宝となった**立花喜久雄**=**花井東一郎**([[👤吉沢亮]])がインタビューを受けるさなかに脳裏に浮かべた回想であると解釈すればそれも納得でき、うまい作りだと思った。
華やかな歌舞伎の現場や芸を大成させていく高揚感も楽しいが、一人の人間の人生を追いかけるならばその凋落にこそ注目したい。
中盤、様々な要因が重なって喜久雄は歌舞伎の表世界から弾き出され、ドサ回りで糊口をしのぐことになる。そんな自らの姿についに我慢ならなくなった喜久雄が崩れてぐちゃぐちゃになったメイクのまま屋上でふらふらと舞う姿はまるでゾンビのようで、もはや生き死にも定かでないように見える。
彼とともに巡業する**彰子**([[👤森七菜]])もその姿に「どこ見てんのよ」と言って彼から離れていく。もう彼には何も残されていない。そして、すべてを剥ぎ取られたときその人物の芯だけが残る。「どこ見てんのよ」と問われたその景色こそが最後に残った喜久雄の芯であり、人生の絶頂に至る最後のオチにまで続いていく。まるで[[🎞️『市民ケーン』]]のように。
### 他の人にはわからない
[[🎞️『市民ケーン』]]以外にも鑑賞中に思い浮かべた映画は多い。
例えば[[🎞️『風立ちぬ』]]。
自らが追い求める美のためであれば周囲が傷つくこともしでかしてしまう主人公像は被るものがある。
劇中で喜久雄が「悪魔と取り引きした」というように、男社会である歌舞伎の世界の外側で彼と繋がりを持つ女性たちはまさに美のために遠ざけられていく。しかもこのセリフを誰に言い放ったかまで考えると恐ろしいものがある。
また[[🎞️『セッション』]]も思い浮かぶ。
クライマックス、まさに決死の覚悟で歌舞伎を演じる**大垣俊介**=**花井半弥**([[👤横浜流星]])を舞台袖から眺める**竹野**([[👤三浦貴大]])。その画は[[🎞️『セッション』]]のクライマックスでドラムを一心不乱で叩くアンドリューを見つめる父親そのままだ。
そういう意味では無言で恐怖する顔の演技だけで通した[[🎞️『セッション』]]と比較して「あんなふうには生きられないな」と竹野に言わせたのはやや過剰な演出であるように思ったりした。
そして[[🎞️『オッペンハイマー』]]。
尺の長さや一代記といったフォーマット部分の重複もあるが、個人的には劇伴の使い方に注目したい。[[🎞️『国宝』]]もまた作中のかなりの割合で劇伴が流れ続ける作品だ。
そんな音楽演出が極に達するのがラストの歌舞伎シーンで、お囃子が演奏されるさらにその上に劇伴を重ねてみせるのだ。
まるで、映画の観客の目の前で繰り広げられているものが人間国宝・三代目花井半二郎が演じる「歌舞伎」なのではなく、喜久雄の人生を描いた「映画」なのだと高らかに謳い上げるかのようであった。
こうしてつらつらと並べてみるとどれもこれも悪魔と取り引きをする男の話だと気づく。
本作もまたこうした傾向を持つ映画のひとつとして末席に連なることだろう。
## 情報
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