# 2025-09-21 [[🎞️『遠い山なみの光』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

>[!info]
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### すっきりしないミステリー
鑑賞後の率直な感想は「すっきりしない」だった。
この映画のミステリーは明快な謎解きではなく、観客に常に揺らぎを残す仕掛けになっている。劇中で起きていることや仕組まれた企みは理解できても、それだけでは主人公・**緒方悦子**(50年代:[[👤広瀬すず]]、80年代:[[👤吉田羊]])の真意に届かない。
断片をつなぎ直し、論理を積み上げてようやく彼女の姿が浮かび上がる。そのバランスが本作の面白さであり、実際に私自身まだ完全に理解できたとは口が裂けても言えない。
### ふたつの時代、ひとつの流れ
それでも映画としては素晴らしいできだ。ミステリー面のネタバレを避けようとするとどうしても抽象的な話になってしまうのだが、少し頑張って言語化を試みたい。
本作は「記憶」をめぐる物語である。50年代の長崎と80年代のイギリスを交互に描きながら、悦子の娘**ニキ**([[👤カミラ・アイコ]])が母の実像を探っていく。
観客はふたつの時代を分離して理解しようとするが、物語が進むにつれて、その分離自体に危うさがあることに気づかされる。
記憶は不定形であり、悦子が語る長崎の思い出もどこか曖昧で辻褄が合っているのかどうか判然としないところがある。個々の事実は写真のように確かに存在するのだが、時間という流れの中ではそれらがねじれ、混線しているのだ。
たとえば価値観の変化だ。悦子の義父・**尾形誠二**([[👤三浦友和]])は戦前に校長を務めていたが、戦後はかつての教え子から軍国教育の欺瞞を指摘されて足元がぐらつく。正しさは歴史の流れの中で容易に反転し、写真のように固定化することはできない。
この「流れ」を象徴するものが長崎に投下された[[原子爆弾|原爆]]である。爆発の光はカメラのフラッシュのように一瞬のことだったかもしれない。しかし、その影響はその後何十年にもわたって人々を縛りつけることになる。その下で悦子が求めたのは、自由だったのだ。
### 広瀬すずと「自由を求める女性」
[[👤広瀬すず]]は今年の[[🎞️『ゆきてかへらぬ』]]でも自由奔放に振る舞おうとする女性を演じていた。彼女の視線は強く鋭く、時代の束縛を突き破ろうとする意志を体現している。
近年の出演作には、彼女の力強い眼差しをどう生かしてみせようかという作り手の気合が感じられる。本作もまた、脂ののった時期にふさわしい一作だった。
## 情報
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