# 2025-09-26 [[🎞️『俺ではない炎上』]]を観る ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『俺ではない炎上』観た。作中で「リツイート」と言っていたので存在しない2024年のツイッターというSFとして観るべきか。クライマックスで事件の関係者をあの場所に集わせる狙いはわかるが全てが偶然任せに思えるサスペンス。冴えなくて説教くさい台詞を阿部寛と芦田愛菜の顔面力でなんとか補う。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1971572477743776123) >[!info] > ![[🎞️『俺ではない炎上』#概要]] ## およげ!たいすけくん まいにち まいにち ぼくらは[[𝕏]]の うえで やかれて いやになっちゃうよ。 というわけで[[🎞️『俺ではない炎上』]]を公開初日に鑑賞してきた。 予告編の時点ではあまり注目していなかったのだが、公開二日前に本作の監督が[[👤山田篤弘]]さんであることに気づいた。 監督の前作に当たる[[🎞️『AWAKE』]]はAI将棋と[[電脳戦]]という題材から見どころのある青春映画に仕上げており大変好ましい作品だった。また、私の人生にゆかりがあるロケ地だったこともあり、その分のバフもかかっている。 その監督の五年ぶりの新作ということで応援の意味も込めて初日に劇場へ駆けつけた。 主人公である**山縣泰介**([[👤阿部寛]])は身に覚えのない殺人事件の犯人扱いされてしまう。 そのきっかけは[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]――劇中で「引用リツイート」というセリフがったので作中時間の2024年には存在しないはずの[[Twitter]]――で、殺人現場の画像をアップしたアカウントからだ。 そのアカウントのツイートを、大学生インフルエンサーの**<ruby>初羽馬<rt>しょうま</rt></ruby>** ([[👤藤原大祐]])がリツイートしたことであれよあれよと広がり、燃えに燃えてしまう。 身に覚えのない事件に巻き込まれ、一人の人間が社会的危機に陥る映画として、今年は[[🎞️『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』]]もあった。こちらはまだSNS以前の2003年が舞台だが、マスコミにより児童虐待を疑われ「殺人教師」烙印を押されてしまう。今風に言えばデジタルタトゥーだ。 >[!check] > 題材は似ているがこちらの方がシリアスで少し複雑な味付け。 > > - [[2025-06-29 🎞️『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』を観る]] 映画の流行は社会の反映でもある。近年の炎上社会の醸成により、知らぬうちに罪人扱いされ、何もできぬうちに社会的に潰されてしまうことは、現代の大人たちがリアリティを覚える恐怖の形なのかもしれない。 >[!check] > ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「ヴィーガンの前で肉を食べて見せるパフォーマンス。他人の信念を踏み躙る幼稚さゆえの暴力だと思っていて、まさにそれに晒されがちだったオタクがマジョリティに回るやいなや同じことをしているということにゲンナリしている。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1957984008828330048) > > 私が最近体験したボヤ。この程度の拡散具合でも私からすれば見当違い甚だしい攻撃的な反応が飛んできて、そこそこメンタルにくるものがあった。 ## 自分は暴走していないと思い込みたい正義心 フィクションによって架空の[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]炎上が描かれるとき、決まって描かれるのが「暴走する正義心」だ。 本作でも定番描写として、泰介が務める会社にひっきりなしに抗議の電話がかかり、迷惑系やら私人逮捕系やらの功名心にはやる輩たちが逃げる泰介の居場所を求めてイキり散らかすさまが描かれる。 それを社会善であると信じて鑑賞する者はおそらくいないだろう。作り手も、観客も、基本的に嫌なものだと思いながらそうした光景を見ているはずだ(と信じたい)。分かりやすい「暴走する正義心」の描写である。 しかし、真に暴走した正義心は人をも殺してしまう。 「自分は正しい」と確信するものは、どんな行為をしでかしてしまったとしても(例えばそれが殺人だとしても)それを正当化できてしまうのだ。 炎上を面白がりながらそれが誤報だったときに「自分は悪くない」というポーズを取る者は多い。 しかし、「自分は悪くない」という発想は、アクセルを踏み込めば「自分は正しい」へと暴走してしまえるということだ。結局は程度問題であり、延長線上にある態度なのだ。 だから自らの非を認めることが大切だ。 私は知らないうちに他者を傷つけうる存在であるということを受け入れ、そうした愚を犯したときはそれを認め、反省し、謝罪すること。インターネットではなかなか観測できないこうした態度こそが、人生をより良い方向へと導くものであると私も信じたい。 そんなメッセージを本作はこれ以上なく分かりやすく図式化してみせる。この批評性が本作の好ましいポイントだと思った。 ## 脚本や演出にも「自分は悪くない」とは言わせまい ただし、サスペンスとしては結構不満が多い。 脚本や演出には甘さがあり、感想ポストにも書いたように偶然だよりに思えるプロットは納得感に乏しく、台詞のダサさを役者の演技でなんとかカバーしている場面も散見される。 特に**サクラ**([[👤芦田愛菜]])がある人物に説教をするシーンのセリフ回しは不自然な説教臭さがそのまま残されていてかなりキツかった。 ここは[[👤阿部寛]]にも負けていない[[👤芦田愛菜]]の顔芸でなんとか見られるものになった、という印象だ。 また、単純によく分からない演出もあった。 中盤、スナックで朝を迎えた泰介だったが、正面扉が激しくノックされてピンチを迎えるシーン。ここで泰介が自らの鞄を漁る様が映され、何か危機を脱する道具を取り出すのかと思いきや、気づけば外に出ていたといった編集がされており混乱した。 さすがに意味不明なので私の見逃しがあるのかもしれないが、いずれ配信されたら見直そうと思うのでここに記録しておく。 ## 情報 ![[🎞️『俺ではない炎上』#予告編]] ![[🎞️『俺ではない炎上』#主要スタッフ]] ![[🎞️『俺ではない炎上』#関連リンク]]