# 2025-10-19 [[🎞️『宝島』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

>[!info]
> ![[🎞️『宝島』#概要]]
### 超大作の現在地
金を払って見世物を観る以上、やはり金のかかったものを観たい。
特に映画は、制作費の多寡にかかわらず基本的に同じ料金で観られるのだから、より多くの金が投じられた作品を選びたくなるのも自然な話である。
このロジックに従えば「ならばハリウッド映画を観よう」となる。少し前までは。
しかしここ15年ほど、ハリウッドの超大作、とりわけスーパーヒーロー映画は乱造の末に行き詰まりを見せている。VFXアーティストとの軋轢や再撮影の噂が絶えず、莫大な制作費への不信感が広がっている。
そうした潮流の中で[[🎞️『ゴジラ-1.0』]]が[[アカデミー賞]]視覚効果賞を受賞したことは象徴的な出来事だった。
制作費が際限なく膨らむハリウッドの映画作りとは対照的に、少数精鋭のチームがわずか十分の一ほどの予算で高密度の映像を実現した。その成果が世界に驚きをもって受け止められたのである。
[[🎞️『宝島』]]の制作費は約25億円[^1]。間違いなく今年の邦画で最大の金額をかけた、現代日本の超大作といえるだろう。
戦後の沖縄を再現したセットや美術、戦闘機の墜落事故や[[コザ暴動]]といったスケールの大きなシークエンスはどれも見ごたえがある。現在も基地問題を中心に政治的複雑さを孕んだ題材ながらスターを揃えて真っ当な社会派ドラマに仕上げた点も偉い。そして20年という期間を描く、3時間を超える長尺にも圧倒される。
海外タイトルは「HERO'S ISLAND」。現状の国内興行は苦戦しており、一部のスーパーヒーロー映画のようにビジネス的には失敗ということになりそうであるが、個人的にはかなり好ましい一作だった。
### 怒りと祭り
戦後、日本とアメリカの接触地として複雑さを深めていった沖縄を舞台に、両国の思惑の狭間で様々な理不尽を押し付けられた人々を描く。
ストーリーを引っ張るのは村のリーダーだった**オン**([[👤永山瑛太]])の行方不明だ。彼の消息を追う三人の幼馴染たちが物語の中心となる。
もみ消される米兵の犯罪行為や基地周辺で生じる事件・事故が現地住民に与えるストレスは私などは推し量ることしかできない。
そうした積み重ねの果てに、クライマックスの[[コザ暴動]]が生じる。
怒りによって繋がれた民衆は祭りによってそのフラストレーションを一塊となって発散させる。ここでの描写は今年公開された同じく[[東映]]配給の[[🎞️『室町無頼』]]における一揆を思い起こさせるもので、ある種の祭りのようにも見える。歌い、踊り、現状を破壊する民衆の姿だ。
そんな実際の事件を背景に、主要人物たちは「これからどうするか」を問答する。黙っていても理不尽を押し付けられるのみ、ならばこちらも暴力で対抗するべきか。
この長い映画の総決算だ。いつまで経っても平和が訪れない怒りを胸に自分たちはどのように行動するか。それを登場人物同士の関係性とアクションで示す。これぞ映画という見事なシーンだと感じた。
### 沖縄語映画
映画としてはややガチャガチャしており統一感のなさが惜しくもある。プロローグでの[[🎞️『グッドフェローズ』]]風の語り口にそういう演出で攻めるのかとちょっと期待したが、それもすぐに影を潜めてしまい肩透かしだった。
題材的にも[[👤マーティン・スコセッシ]]映画と親和性が高そうなので、饒舌な沖縄語による[[🎞️『グッドフェローズ』]]として極めていれば少なくとも私はぞっこん惚れ込んでいたかもしれない。
とはいえ沖縄語映画としてはところどころで台詞を理解させるつもりがない方言だらけの会話を重ねる潔さに好感をもった。
映画の命は画だ。台詞なんて理解できなくてよい。そこで動く人物たちの精神性が伝わりさえすればそれでよいのだという、映画作家としての意地を感じた。
## 情報
![[🎞️『宝島』#予告編]]
![[🎞️『宝島』#主要スタッフ]]
![[🎞️『宝島』#関連リンク]]
[^1]: コロナ禍による二度の撮影延期も制作費を押し上げる要因となったようだ。