# 2025-11-11 [[🎞️『トリツカレ男』]]を観る
![[ネタバレ#^warning]]
## 感想
劇場で鑑賞。

>[!info]
> ![[🎞️『トリツカレ男』#概要]]
### 推し活時代の寓話
今年観た映画の中でもトップレベルで大変な鑑賞だった。中盤のある展開以降、嗚咽を抑えるのに必死だったのだ。
本作の主人公である**ジュゼッペ**([[👤佐野晶哉]])。
映画冒頭、ラジオから流れる音楽を耳にして彼は「僕のほうが上手く歌える」と歌い出し、そこからミュージカルがはじまる。彼はひとたび何かに夢中になるとその何かに自分の時間のすべてを捧げてしまい、他のものに目がいかなくなる「トリツカレ男」なのだ。
そんなジュゼッペが新たにトリツカレたのが公園で出会った女性**ペチカ**([[👤上白石萌歌]])。一目惚れをした彼は、ペチカの本物の笑顔を見るために自らの「トリツカレ」の力を駆使して奔走するのだが、本作はその様をまるで西洋の古典童話のような世界観で、けれど現代らしいハイテンポな編集で語ってみせる。
上質な物語を前にすると、とても感情移入できそうにない人物に、いつのまにか感情移入させられてしまうものだ。
ある対象に極端に熱中するジュゼッペの姿をはじめは奇異な人間、なんなら狂人として外部から見て楽しめる存在として見ていたはずが、次第に彼が持つ「トリツカレ」性が私の内部にもあるなあと思わされてしまう。
何かを好きになること、何かに夢中になることは、その質に違いはあれど誰もが日々経験していることだ。ジュゼッペの場合はそれがあまりに極端で、なおかつ彼がウルトラハイスペック過ぎるあまり何でもマスターできてしまうところに狂人性を見出してしまうのだが、その本質は誰もが持つ普遍的な性質だ。
そんな、何かに夢中になるという人間の性質を駆動させるアピール合戦で経済を回させようという企みの上に現在の「推し活」文化がある。その是非についてはここでは言及を避けるが、2001年発刊の原作を2020年代中盤に映画化する意義や意図を感じる作品なのは間違いない。
### 個を剥ぎ取られた機械が捧げる愛
そんな本作を観て私の嗚咽が止まらなくなったのは、中盤以降の展開が好みのパターンにどんぴしゃりハマったためだ。
あまり直接的なネタバレにならないよう慎重に述べると、[[🎞️『アイの歌声を聴かせて』]]に近い感覚を覚えた。思わず当時の自分の感想ポストを思い出してしまった。

ジュゼッペの「トリツカレ」は、「ある対象に夢中になる」だけでなくもう一つ異なる意味が付与されて、彼自身の個性を殺してでもペチカを幸福にしようと愚直な方法で時間を捧げ続けることになる。
AIやロボットといった、一見して人間性を持たない存在が、人間性を持たないが故に到達できる人間以上の極まった愛を他者に捧げる姿にどうやら私は弱いようだ。今年の作品で言えばやはり号泣した[[🎞️『野生の島のロズ』]]にも近い。
>[!check]
> 人間へのアシストプログラムを備えたロズが漂流した島で動物たちと親子関係を築く姿に、やはり嗚咽を抑えるのに必死になった思い出。
>
> - [[2025-02-08 🎞️『野生の島のロズ』を観る]]
人間が他者の行動に狂気を感じるのは、そこに人間性が、すなわち自らとの同質性が感じられないからだ。
自分では絶対にやらないこと、あるいは成し遂げられないことを、しかも試行し続ける姿にある種の恐怖心を抱く。
ジュゼッペの「トリツカレ」と彼のウルトラハイスペックさは実はAIに近い領域にまで足を踏み入れているように思った。そして本作はその狂気を最終的には肯定してみせる。
たまにやり過ぎてしまう私たちの愛だけど、それを正しく行使すればあんなにも美しい景色に到達できるのだと。
## 情報
![[🎞️『トリツカレ男』#予告編]]
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