# 2025-11-16 [[🎞️『爆弾』]]を観る
## 感想
劇場で鑑賞。

>[!info]
> ![[🎞️『爆弾』#概要]]
### 攻撃と防御
東京に仕掛けられた爆弾。その場所を知るのは小さな傷害事件で捕まった中年男の**スズキタゴサク**([[👤佐藤二朗]])。
ふざけた態度で刑事を挑発し、まるでゲームをするかのように爆弾のヒントだけを与えてはその成行きを見守る姿は意図もわからずなんとも不気味だ。
そんなスズキと対峙する刑事の**類家**([[👤山田裕貴]])はその卓越した頭脳でスズキの仕掛けるゲームに挑戦する。
映画の尺の半分ほどはひとつの狭い取調室のみで進行するため、必然的に[[👤山田裕貴]]と[[👤佐藤二朗]]の怪演合戦が映画の見所のひとつとなる。
これは私の仕事とも関係するのだが、私はこの二者の闘いをサイバーセキュリティにおける[[ハッカー|クラッカー]]と[[ハッカー|ホワイトハッカー]]の攻防に重ねて見ていた。
コンピュータやネットワークといった、限定された技術領域の内側で繰り広げられるシステムの攻防を巡る頭脳バトル、それを現実社会というより複雑で制御の難しい超巨大システムの上でやっているのだ。
劇中で仕掛けられた爆弾はさしずめバックドアであり、東京中に巧妙に隠されたそれらを突き止めなければ日本社会というシステムが破壊される。そんな類似性である。
サイバーセキュリティの世界では基本的に攻撃側が有利とされる。攻撃側はひとつでも付け入る隙となる穴を見つければよく、防御側はすべての穴を確実に塞がなければならないからだ。
本作もその定説が踏襲される。現実的には攻撃側も大きな時間的・金銭的コストを負担するが、本作はフィクションの力でもってその問題はクリアしたものとして、映画開始時点ですでにバックドア、すなわち爆弾の設置が完了したものとしている。
最近もアサヒグループやアスクルなども被害にあった[[ランサムウェア]]攻撃を見れば分かるが、侵入に成功しさえすれば主導権は[[ハッカー|クラッカー]]側が握ることになる。動機不明なスズキの言動に振り回される中、スズキと類家による以下のやり取りが印象に残った。
スズキが類家に言う。優秀な貴方ならば、もっと上手く攻撃できただろうと。
類家がスズキに言う。攻撃するのは簡単だ。だから俺は守る側に立つのだと。
このやり取りにホワイトハッカーの、社会の守護者の、そしてヒーローの悲哀を見る。
どれだけ防御に腐心しても攻撃は止むことなく、一度でも負けて被害を出してしまえばその責任を負わされる。それはリスクの高い、割に合わない役割なのだ。
だから、もうこんな仕事はやめたほうが良いのかもしれない。
### ペシミズムという爆弾
そんな<ruby>悲観<rt>ペシミズム</rt></ruby>こそがスズキが仕掛けた最大火力の爆弾だ。
現代日本に生きる絶望感。格差社会の理不尽。そんな現実を突きつけてヒーローの心を折ろうとする。まるで[[🎞️『ダークナイト』]]における[[ジョーカー]]のように。
そんなスズキが残した最後の爆弾の在り処はなんとも小洒落ている。
それは[[🎞️『ファイト・クラブ』]]における[[タイラー・ダーデン]]のごとく、映画を観た後にも「お前を見ているぞ」と警告し続ける。
これら歴史に残るヴィランのように、[[スズキタゴサク]]もまた、ペシミズムの化身として私の脳裏にずっと住み続けるかもしれない。今後、悲観的になる度に彼の圧の強い顔面が脳裏に浮かぶようになるかもしれない。
もしもそうなったらこの映画は単なるヒット作にとどまらず10年後も20年後も語られ続ける作品となることだろう。少なくとも、現時点でも見逃し厳禁の力作である。
## 情報
![[🎞️『爆弾』#予告編]]
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