# 2025-11-22 [[🎞️『果てしなきスカーレット』]]を観る ![[ネタバレ#^warning]] ## 感想 劇場で鑑賞。  >[!info] > ![[🎞️『果てしなきスカーレット』#概要]] ### 報復心を巡る冒険 16世紀デンマークの王女**スカーレット**（[[👤芦田愛菜]]）が死者の国で繰り広げる冒険は、自らの内にある報復心とどう向き合うかという物語だ。 私は単純ゆえに、復讐・報復をせずに生きたいなあと常々思っている。「報復の連鎖」という言葉もあるが、その連鎖を断ち切れる人間になりたいと。 それは客観的に見れば「敗ける」ということである。人間は実利の面でも名誉の面でも敗けることに耐え難く、だから一方的な敗けを受け入れられず報復に走る。 しかし、互いが敗けることを受け入れられないとなったら、いずれかが根絶やしになるまで報復は止まらなくなる。それはどう考えても個人を超えた不幸であり、そうならないよう努力することこそが人間の正義の条件だと私は考える。なぜなら私は単純だからだ。 だから本作が掲げるテーマや着地は決して嫌いになれない。 死者の国を舞台とした地獄めぐりの果てにスカーレットが至った決断は、私の正義に適うものだからだ。 それはあまりに単純な結論かもしれない。世界の複雑さを無視した綺麗事かもしれない。 それでも物語は、それも大衆に届けるべく創作されたエンターテインメントは、ときにそうした単純な綺麗事を語ることも必要だ。 しかし、単純な綺麗事を語り切るには覚悟がいる。それが単純な綺麗事であるということを自ら受け入れることを、他者から拒否される可能性を自覚することを。 本作の物語の終わり方にはその覚悟が感じられず、そこははっきり不満である。 いつだって、誰だって、我欲にのまれて害をなすことはありうる。それが人間である。 ゆえに人間として人間と付き合う限り、報復心との付き合いもまた続く。報復心に終わりはない。どこかで報復の連鎖を断ち切ることができたとしても、また別の鎖に繋がれてしまうものだ。 本作のラストの描写からは、新たな欲望と報復心が発生しうること、つまりこの闘いは現実で続いていくという肝心なところがすっぽり抜けていた。この点を指して私は「惜しい」と思った。 「この闘いは現実で続いていく」ことを描くと確かに作品としての後味に影響するかもしれない。しかし、「報復心との付き合い方」についてあのような結論を出した以上、そこまでの射程をの広さを期待せずにはいられなかったのだ。 ### 過剰な表現と微々たる興奮 [[東宝]]配給の大予算のアニメーション映画として観たとき、本作には好きな表現と苦手な表現が同居していた。 好きなところはなんといっても序盤、死者の国を象徴する茫漠たる砂漠の表現だ。個人的に砂漠や荒野が描かれる映画は半自動的に好きになる癖を持つためこの点は目に楽しかった。 また、スカーレットの戦闘アクションは3Dを取り入れたアニメーションが見事であまり観たことのないリアリティと面白さを両立していたように感じた。 逆に、苦手な点としてスカーレットの多彩かつわかり易すぎる表情表現が挙げられる。 人の顔をデフォルメすることで喜怒哀楽をより幅広く表現できるのがアニメーションの強みであることは理解するが、私には情報過多であまり好みではなかった。 [[👤芦田愛菜]]さんも熱演だとは思うが、個々の場面でその時の特定の感情に振り切ったテンションの高い声の演技は食傷気味だった。 後は取り沙汰されることの多い渋谷でのミュージカルシーンもイマイチだ。 先述した戦闘アクションと裏表かもしれないが、こちらは逆に3D表現とアニメーション表現の食い合わせが悪く感じ、ダンスの動きにぎこちなさを強く感じた。 また、そもそも渋谷という街に「幸福な未来像」を感じないという、個人的な好みもこのシークエンスにおいてはノイズだった。 [[👤細田守]]監督の前作[[🎞️『竜とそばかすの姫』]]で極まった「巨大な空間を動き回る小さな群衆」の表現は今作も健在。 このような圧巻させられる表現は所々に置かれているのだが、それらがストーリーの感情とあまりリンクしない興奮で、鑑賞中になかなか「あがりきらない」映画だったと思う。この分かりやすい興奮の不在が本作の不人気の一番の原因なのだろうかと感じた。 ## 情報 ![[🎞️『果てしなきスカーレット』#予告編]] ![[🎞️『果てしなきスカーレット』#主要スタッフ]] ![[🎞️『果てしなきスカーレット』#関連リンク]]