# 2025-12-10 [[📘『物語化批判の哲学 〈わたしの人生〉を遊びなおすために』]]を読む ## 感想 >[!info] > ![[📘『物語化批判の哲学 〈わたしの人生〉を遊びなおすために』#概要]] なんでもかんでも物語に担わせるのは危険なのではないか。 確かに物語は面白く魅力的だ。だからといって、あらゆるものを物語化することははたして正しく対象を理解し、楽しむことに寄与するだろうかと本書は問いかける。 たとえば人生。面接の場において、自らの来し方を物語化して語るとき、私の中でどのような営みが行われているのか。 たとえば世界。到底理解し得ない複雑系である世界そのものをなんとか捉えようと物語化を用いると、複雑さによって引っかかっていた豊かなものをこぼれ落としてしまうのではないか。 たとえば他者。[[MBTI]]診断が流行しているが、現実に生きる人を物語化し、キャラクターとしてカテゴライズすることは、その人の自己理解を割り当てられた物語の中に閉じ込める危険性があるのではないか。 このような「物語化批判の哲学」を本書の第一部「冒険篇」で展開する。 そして第二部「探求篇」では、物語という〈遊び〉を通して何かを理解しようとすることの功罪を踏まえて、それでは異なる遊び――ゲーム、パズル、ギャンブル、おもちゃ遊び――だとどうなるのかを探求する。だから副題は「〈わたしの人生〉を遊びなおすために」だ。 私自身ゲーマーであるという自覚があるためか、特に「ゲーム批判の哲学」の章は日々脳裏によぎる違和感への考え方が示唆される。 ゲームには「ルールと勝敗」がその中心にある。この社会をゲームとして解釈したとき、ひとつの固定されたルールの中で勝敗が競わされるイメージが換気される。 熟達したプレイヤーはそのルールを「ハック」して出し抜こうとしする。しかしそこでは度々倫理が置き去りにされがちで、だからそれは「チート」と呼ばれるようになる。[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]でインプレッションを伸ばすゲームに興じる一部のプレイヤーを眺めればその様相のグロテクスさをいつでも観察できるだろう。 そうしたひとつの固定されたルールで遊び、その中で極めようとしているうちは、本来社会とはルールを変更することが可能であるということを見失ってしまう。 それではゲーム的主体として生きるとき、どのように振る舞うことで「ゲーム化」の悪さから逃れることができるか。 本書では、ゲームプレイヤーであると同時に、ゲームデザイナーとして振る舞うことの重要性が語られる。それがどういうことかはぜひ本書をお読みいただきたい。 あとがきによれば、本書を「物語」遊びの書として、探求編で論じたゲーム、パズル、ギャンブル、おもちゃについてもそれぞれ一冊の本とした五部作にしたいという。 個人的に特に興味があったのが「物語」であり、「物語化批判」という文字列につられて本書に手を出したので、この計画通りに発刊されたとしてすべて読むかは微妙なところだが、少なくとも「ゲーム」については付き合いたいと思った。 ## 情報 ![[📘『物語化批判の哲学 〈わたしの人生〉を遊びなおすために』#目次]] ![[📘『物語化批判の哲学 〈わたしの人生〉を遊びなおすために』#関連リンク]]