# 2025-12-17 [[🎞️『THE END(ジ・エンド)』]]を観る ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『THE END(ジ・エンド)』観た。正直、思っていた方向性の映画とは結構違っていたけれどいい映画だった。人類最後の家族が、人類最後であったとしても維持したものこそが、人類にとっての矜持なのかもしれない。芸術、文学、歌や踊り、そして愛。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/2001289918916808849) >[!info] > ![[🎞️『THE END(ジ・エンド)』#概要]] ### [[👤ジョシュア・オッペンハイマー]]監督 本作の予告編を[[📍新宿シネマカリテ]]で観たとき私はかなり驚いた。 ポストアポカリプスSFなんだな、それでミュージカルなんだな、と眺めていたら、監督が[[👤ジョシュア・オッペンハイマー]]だという。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「ジョシュア・オッペンハイマーの劇映画?! しかもミュージカル?! と予告編を観てビックリしたやつ。楽しみ。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/1994941801141342633) この監督の代表作は2012年制作[[🎞️『アクト・オブ・キリング』]]だ。1960年代のインドネシアで発生した大量虐殺を取材したドキュメンタリー映画である。 この映画の制作に当たって監督は当局から被害者への接触が禁じられたため、実際に虐殺を行った加害者にカメラを向けた。現在も共産主義から国を救った英雄として称えられている彼らは嬉々として取材に応じ、当時どのように共産主義者を殺害したかを演じてみせる。それを見た監督が「あなたが行った虐殺を映画にしないか」と提案して劇映画を撮り始めるのだが……といった内容。 鑑賞したのは10年前だが今でも脳裏にあるショットが浮かぶ衝撃的な映画だった。 それから姉妹作の[[🎞️『ルック・オブ・サイレンス』]]を経て、以降は監督の名前を目にすることはなかったのだが、ここで劇映画の新作ということで驚いてしまったのであった。 ### 人類最後の家族 本作の基本設定は、環境破壊により人類が地上に住めなくなった未来で、エネルギー産業で財を成した裕福な主人公家族は25年前から地下シェルターで生活しているというもの。そこに20年ぶりに来訪者([[👤モーゼス・イングラム]])が現れて……というお話だ。 この設定から[[ポストアポカリプス]]な物語を想像させられるが、だからといってSFと思って観ると面食らうだろう。本作はリアリティのSFではない。それは本作のもう一つのジャンルとしてミュージカルを内包していることからも分かる。演技の合間に歌唱を挟み込むミュージカルはリアリティのあるドラマとは相反するものだ。 だから本作の[[ポストアポカリプス]]的な背景はテーマを語るために必要な設定であり、それ以上の関心は作り手にはあまりないものとして観るべきだろう。そのテーマとは「人類最後の家族」という現状では現実に存在し得ないシチュエーションを通して家族を描こうというものだ。だから登場人物にも名前がなく、「ある家族」として抽象化されている。 だからSFを期待して鑑賞するとかなり肩透かしを食らうことになるだろう。食料や衣服、地下シェルターでの生活にはサバイバルを予感させるようなシビアさは感じられず、ある裕福な家庭の家族ドラマとして淡々と進んでいく。 そんなチューニングを序盤のミュージカルシーンで済ませたはずの私もまた、自らの思い違いから事前に想像していた映画とは微妙に異なっていたことを告白しよう。 正直、もっと人間の嫌な部分を抽出するような家族ドラマを想像していた。20年ぶりの来訪者の少女と、自らのテリトリーを守ろうとする家族の対立。そこで物心がついてから家族の外部との交流をしたことがない息子([[👤ジョージ・マッケイ]])が少女と恋に落ちてしまったために、家族が破滅していくのではないかと。 しかし本作はそのような悲観的なプロットをなぞらない。なんというか、==人類の良い部分をちゃんと信じている==。確かに来訪者への不審はあるが、両者が話し合い、分かり合い、そして新たな家族として迎え入れることになる。 すると25年間も固定化されてきた家族というコミュニティに新しい風が吹く。それまで穏当に過ごしてきた家族の中の秘密や嘘が暴かれて波乱を起こすも、それも各々が家族であり続けるために粘り強く対処していく。 そんな家族愛が描かれる本作であるが、彼らが「人類最後の家族」である以上、そこで賛美されるものは決して家族愛だけではないというのが本作のミソだ。 地下シェルターには絵画やジオラマが飾られ、プール施設もあってそこで日々身体を鍛え、父親([[👤マイケル・シャノン]])は息子とともに自叙伝を執筆する。 美術、運動、文学――どれもこれも<ruby>芸術<rt>アート</rt></ruby>という人類の営みであり、外部からの刺激のない彼らが25年も人間であり続けることを保っていられた要因としてこれらの要素が描かれる。そしてミュージカル、つまり歌と踊りもまた、その一要素と数えていいだろう。だから本作はミュージカルであることに必然性がある。本作が歌い上げるのは、文字通りの人間讃歌なのだ。 ## 情報 ![[🎞️『THE END(ジ・エンド)』#予告編]] ![[🎞️『THE END(ジ・エンド)』#主要スタッフ]] ![[🎞️『THE END(ジ・エンド)』#関連リンク]]