# 2026-02-14 [[🎞️『スペルマゲドン 精なる大冒険』]]を観る ## 感想 劇場で鑑賞。字幕版。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『スペルマゲドン 精なる大冒険』観た。精子擬人化アニメーション。主人公である精子に感情移入して応援するということは、すなわち若者の望まぬ妊娠を望むことであるという物語の構造的問題を真面目にアフターフォローしていて真面目な映画だと思った。一生分の女性の糞尿を観た。最後の字幕で爆笑。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/2022601033680376113) >[!info] > ![[🎞️『スペルマゲドン 精なる大冒険』#概要]] ### 主人公への感情移入をめぐる問題 昨年12月3日にちょうど日本公開のアナウンスがされたときから期待していた映画だった。 はじめは大傑作[[🎞️『ソーセージ・パーティー』]]のような、3Dアニメーションで悪趣味なことをするアメリカ映画がまた出てきたぞ、と思ったのだが調べてみたらノルウェー映画だという。 主な登場人物は精子たちだ。 卵子に到達して受精することを存在理由とした彼らは睾丸の中で膣や受精について学び、身体の持ち主が<ruby>膣内射精<rt>なかだ</rt></ruby>しセックスをした際に「スペルマゲドン(最終決戦)だ」と歌いながら勇ましく旅に出る。 映画を観ていて引っかかるのが、主人公である精子たちを応援しにくいという構造的な問題である。 彼らの目的は卵子に至り受精することだ。その帰結としてパートナーは妊娠するわけだが、まだ高校生の**リサ**はちゃんと避妊を意識してコンドームを付けさせているにも関わらず、精子のひとりがチェーンソーでコンドームを破いてまで膣へと躍り出ようとする。 殺精子剤やアフターピルといった避妊方法も精子たちにとっては物語における「障害」となる。観客にとって、主人公たちを応援することは、これら女性が自らの人生をコントロールするための手段を「邪魔者」として捉えることになるのである。 そこには悪趣味な笑いは生じるが、[[フェミニズム]]的にはかなり問題のある作劇であることは間違いない。そして作り手もそのことを意識したアフターフォローを入れている。 ### これはアメリカじゃ作れないかも 受精に至るまでの大冒険が終わった後のエピソードで、人間界では交わった二人が産婦人科で相談をするシーンが挿入される。 そこで産婦人科の女医が繰り返し、繰り返し「相談して」とミュージカルの形で歌い上げる。 調べてみるとノルウェー社会は性教育や[[リプロダクティブ・ヘルス/ライツ|リプロダクティブ・ヘルス]]の支援が高い水準で制度化されており、中絶は女性の自己判断で認められているし、アフターピルの入手も容易なのだそうだ。 日本でも今月2日から処方箋なしでアフターピルの購入が可能となったが、販売されるのは要件を満たした薬局に限られ、薬剤師の前で服用することが義務付けられている。その点ノルウェーは日本よりもずっと進んでいると言えるし、なんならこの映画が規制緩和された今月公開というのもタイミングがよい。 初めて企画を知った時にアメリカ映画かと思ったと述べたが、この作劇はアメリカでは難しいだろうと思った。 アメリカ国内の一部の州では宗教的・政治的な理由により中絶へのアクセスが制限された地域があり、そこでは産婦人科や妊娠相談所で相談をしてもどうにもならないケースがあるという。 例えば[[🎞️『17歳の瞳に映る世界』]]では主人公が地元の妊娠相談所で10週目と伝えられるが、後にニューヨークの医療機関で診察を受けると実際にはもっと進行しておりその病院では処置ができないと告げられる展開がある。 こうした女性の自己決定における構造的な問題を抱えた国で本作のようなメッセージを打ち立てる映画を作ったとしても欺瞞と捉えられることだろう。 ### "大"冒険 と、ここまで真面目に語ってみたが、もちろん本作は大部分が悪趣味なおふざけセックスコメディである。 たとえば睾丸で生活する主人公が自宅で受精に至るまでの過程を[[バトルロイヤル]]型のゲームでシミュレーションしているところなどはアナロジーの巧みさに笑ってしまった。 他にも射精の直前に**カウパー僧**と呼ばれるキャラクターが出てきて精子たちよりも先陣を切って祈りを捧げるといった描写などは劇場も爆笑だった。 睾丸から外に出た後も、ちょっとここに書くのは躊躇われるような下品な描写の連続で笑いながらドン引きしたりした。 しかもエンドロール後に表示されるある字幕で、そのドン引きの展開の数々に対するフォローがされていて、ここで最後の一笑いが生じたのも良かった。 ## 情報 ![[🎞️『スペルマゲドン 精なる大冒険』#予告編]] ![[🎞️『スペルマゲドン 精なる大冒険』#主要スタッフ]] ![[🎞️『スペルマゲドン 精なる大冒険』#関連リンク]]