# 2026-05-30 [[🎞️『箱の中の羊』]]を観る ![[ネタバレ#^warning]] ## 感想 劇場で鑑賞。 ![Xユーザーのこーしんりょー@SpiSignalさん: 「『箱の中の羊』観た。生前のデータを元に性格づけられたヒューマノイドの息子。テクノロジーがそれを可能にしたとして(現にある程度可能で度々議論を呼び起こしていて)、死者はその死者自身のものであるということを確認する。他者はどう足掻こうと私とはならない。だから、箱の中の羊は。」 / X](https://x.com/KO_SHIN_RYO/status/2060680283347898717) >[!info] > ![[🎞️『箱の中の羊』#概要]] ### 喪失のモラトリアム 本来、予期しない急死や不審死は何の準備もなく訪れ、唐突に大切な人との関係を絶たれてしまう。その喪失に向き合うことの難しさは想像に難くない。本作の夫婦は息子の死から二年経過してなお、異なる形でその死を引きずっている。 フィクションはそこにウソを混ぜることで、本来は存在しないモラトリアム期を与えることができる。そしてそのウソは、現在ならばやろうと思えばある程度は実現できそうなもので、つまりはテクノロジーによる死者の復元だ。それははたして本当にウソか、将来マコトになるのだろうか。 死んだ息子の生前のデータから性格付けされたヒューマノイド。 それを迎え入れた夫婦は、まだ息子である翔([[👤桒木里夢]])の死という事実に対してうまく折り合いがついておらず、ヒューマノイドを溺愛しようとする妻([[👤綾瀬はるか]])と、距離を取ろうとしつつも面影を見出してしまう夫([[👤大悟]])がそれぞれに交流を積み重ねる。 こうしたギクシャクした家族ドラマは[[👤是枝裕和]]監督ならばお手の物で、そこにSF的なギミックをひとつまみ入れたことで更なるマジックを起こせるだろうかと期待したが、どうも映画としてもギクシャクしたものを感じる。 本作のメインプロットは翔のヒューマノイドとの交流を通して喪失のモラトリアム期を与えられた夫婦が成長し、その死と決着をつけるというドラマだ。 しかしその裏では、野良となったヒューマノイドたちが人間の住む場所から逃れようと画策し、そこに翔も加わるという不穏なサブプロットが進行する。 自分の子供(ないしは子供的な存在)が不穏なものに接近する恐怖を描くホラー映画のパターンかと思いきや、どうもそうではなさそうだ、ということが後半に進むにつれて明らかになる。 つまるところは「死者をAI技術によって復元すること」という現在進行系で議論を呼ぶ題材にひとつの回答を与えようとした結果生じたサブプロットなのだが、そこがどうにもツッコミどころが多くノイズになる。 ### 近未来SFあるある:ガバガバガバナンスなテクノロジー企業 この手の、現実よりも倫理観を一線飛び越えた近未来を舞台にした作品では、どう考えてもガバナンスがおかしなテクノロジー企業が登場し、そこがプロットホールとなりがちだ。例えば人口子宮技術が当たり前になった近未来を描く[[🎞️『ポット・ジェネレーション』]]などの前例が思い浮かぶ。 「倫理観を一線飛び越え」るためには本来長い時間の積み重ねが必要なのだ。それを無視して現代から近未来を真っ直ぐに見据えたときに生じる違和感のしわ寄せ先として、ガバガバガバナンスなテクノロジー企業が都合よく用いられがちなのだろう。 本作の場合は**REbirth**を謳うヒューマノイド事業がどう考えても変だ。 ヒューマノイド技術はまだ普及段階で、不慮の事故で息子を喪った夫婦に無料でリースするというのだが、高額なヒューマノイドの扱いを貸出先の夫婦に完全に一任している。しかも各個体のモニターを企業側ではしていないと思われ、だから野良のヒューマノイドが生じてしまう。 そんなガバナンス不在のヒューマノイドの扱いに違和感を抱いていたところで、翔が家の二階から落下してREbirth社のメンテナンス室へと送られる場面に移る。ここがある意味で衝撃的だ。 それまで自然と一体化した現代家屋の映像が印象付けられていたからこそ、唐突にスクリーンに映る赤い光に包まれた人工的なメンテナンス室がいかにも「悪の組織」を想起させるのだ。 ヒューマノイドとはいえ息子と同じ顔をした翔の身体を開きながらの作業を母親の目の前で行うというのも変だし、そこでエンジニア([[👤中島歩]])が「安心してください、私は人間なので」と語りかけるのも変だ。 終いにこのシーンの最後には、エンジニアが翔の身体からGPSチップが埋めこまれている位置に切開された形跡があることを発見するのだが、その対応については作中で描かれていない。ここがなんとも不気味だ。明らかにGPSチップ取り除かれたことへの対策が講じられた描写がないことから、分かっていて見逃したと考えるしかないのだが、なぜ? なんのために? 私は、翔をあえて泳がせることで、ヒューマノイドからGPSチップを取り除いている者を突き止めようとしている前振りなのだろうと読んだ。 だから本作の終盤、「死者は誰のものか」というテーマを消化するために舞台を大きく移動する際に、いつ悪の組織REbirthの魔の手が伸びるのか、とハラハラしたのだが、そんなことは起こらなかった。じゃああの[[👤中島歩]]は一体なんだったんだ。 そんな感じで近未来SFにありがちなツッコミどころへの言及が多くなったが、家族ドラマの部分はちゃんと面白いからトータルではそんなに嫌いじゃないよ、とだけ。 ## 情報 ![[🎞️『箱の中の羊』#予告編]] ![[🎞️『箱の中の羊』#主要スタッフ]] ![[🎞️『箱の中の羊』#関連リンク]]