# 2026-09-20 「イ・チャンドン レトロスペクティヴ 4K|オールナイト〈第一夜〉」を観る
![[レーティング#^r-15]]
## 感想
[[📍目黒シネマ]]のオールナイト上映に参加。
先日の[[ヴェネツィア国際映画祭]]でも好評で[[銀獅子賞]]を受賞した[[🎞️『もしもの愛』]]に合わせてか、[[👤イ・チャンドン]]の全作を二回に分けてオールナイト上映する企画だ。
初めて観た[[👤イ・チャンドン]]作品は[[🎞️『バーニング 劇場版』]]。
直近に観た[[🎞️『アンダー・ザ・シルバーレイク』]]と併せて、深い迷宮へと迷いこむような[[ノワール]]映画として印象深かった。
その後、全作4Kレストア化に伴う全作公開が2023年に行われ、当時鑑賞したのは[[🎞️『シークレット・サンシャイン』]]だけだった。こちらはキリスト教とその救いについて深く入り込む重いドラマでガツンとやられた覚えがあり、いずれその他の作品も鑑賞しようと思っていた。
今回のオールナイト企画は初期作三本と未鑑賞の作品群だったので嬉々として向かったのであった。
結論としては初期作すべて面白かったが、特に[[🎞️『ペパーミント・キャンディー』]]にはかなり食らった。韓国現代史が主人公の悲劇の背景にある仕組みになっており、[[🎞️『タクシー運転手 約束は海を越えて』]]や[[🎞️『ソウルの春』]]などを通った今だからそのことを把握できたのも大きかった。
各作品については以下に短評を残す。
### [[🎞️『グリーンフィッシュ』]]
>[!info]
> ![[🎞️『グリーンフィッシュ』#概要]]

プロットとしては見覚えのある裏社会もので、ボスに気に入られた男が成り上がっていき、最後には……という[[ノワール]]だ。
兵役上がりでやることのないモラトリアム期の男が普通の生き方からはみ出していくという構造には[[🎞️『卒業』]]を思わせるところも。大都市化が進むソウルと、主人公の実家の素朴さ(しかし遠方では開発中の都市が映る)との対比が、主人公からイノセンスが失われていくさまを視覚化する。
家族でのピクニックでの場面、喧嘩が始まるなかで主人公は車に乗り込みその周囲をくるくると回る。たとえ運動するエネルギーがあったとしても、この場所から逃れることができないことを示すようだ。個人的に、[[🎞️『アンダーグラウンド』]]のある場面を思い起こさせるシーンで、同様に同じ場所をぐるぐる回るという演出は次作の[[🎞️『ペパーミント・キャンディー』]]でも繰り返される。
![[🎞️『グリーンフィッシュ』#関連リンク]]
### [[🎞️『ペパーミント・キャンディー』]]
>[!info]
> ![[🎞️『ペパーミント・キャンディー』#概要]]

田舎と都市の対比によって主人公のイノセンスの喪失を描いた[[🎞️『グリーンフィッシュ』]]に対して、本作では主人公が韓国現代史の激動に右往左往させられた結果、やはりイノセンスを喪失する物語だ。
この初期二作では、同じテーマを異なる手法で描いていると解釈した。映画が電車から始まる、というのも重複している。本作ではさらに電車の移動を逆回しにすることで時間の遡りを表現し、1999年から1980年へとシーンは移ろいで行く。
1997年の[[アジア通貨危機]]によって財産を失い、1987年の[[6月民主抗争]]では警察官として市民への水責めの拷問をし、そして1980年に[[光州事件]]には軍の兵隊として関わっていく。
これらの事件を通して彼は純真さを擦り減らしていき、時系列的には最後に当たる冒頭のピクニックと、時系列的には最初に当たる最後のピクニックでの違いが強調される。
個人では国や時代といった大きな物語は変えられず、ただただ右往左往させられるだけ。そんな悲劇をトリッキーな作劇で強く印象づける作品で、個人的には韓国映画という枠組みの中でもトップクラスに好きな作品となった。
![[🎞️『ペパーミント・キャンディー』#関連リンク]]
### [[🎞️『オアシス』(2002年)]]
>[!info]
> ![[🎞️『オアシス』(2002年)#概要]]

[[🎞️『グリーンフィッシュ』]]の路線は[[🎞️『ペパーミント・キャンディー』]]でやり尽くしたからか、三作目に当たる本作では真っ当なロマンスを描く――のだが、カップルとなる二人は観客の偏見を浮かび上がらせる人物となっておりやはり一筋縄ではいかない。
特に[[👤ムン・ソリ]]演じる脳性麻痺の演技は凄まじく(ここで「凄まじい」という表現を使ってしまう所がまさに偏見の表出でもある)、理解や共感はおろか、会話も不能な対象のように思える。実際、彼女の家族もコミュニケーションを諦めているところがあり、彼女と唯一人間的なコミュニケーションを試みる前科持ちの男とのロマンスも危うさを感じてしまう。
社会に理解されない者同士の交流は、やはり社会に理解されることはなく、その不理解は悲劇へと繋がっていくのだが、誰にも理解されない彼らが見るこの世界の美しさに観客としてはやられてしまったのであった。
![[🎞️『オアシス』(2002年)#関連リンク]]