# 2026-11-07 [[🎞️『もしもの愛』]]を観る ![[レーティング#^r-15]] ## 感想 劇場で鑑賞。 >[!info] > ![[🎞️『もしもの愛』#概要]] ### 最高密度の一本 直近で[[2026-09-20 「イ・チャンドン レトロスペクティヴ 4K|オールナイト〈第一夜〉」を観る|イ・チャンドン監督の初期作を観ていた]]こともあって[[👤イ・チャンドン]]熱が高いタイミング。[[Netflix]]制作ですぐに配信で観られるようになるのだが、やはり劇場で観るしかないだろう。 片や、旦那が二年前に会社をリストラされ、経済的危機に陥っている夫婦。 片や、御曹司の旦那とドキュメンタリー監督の妻という経済的・文化的に充実した夫婦。 この二組の夫婦が、労働問題のドキュメンタリー映画の撮影という名目で交流を開始するというのが本作のあらましだ。 さすがは[[👤イ・チャンドン]]、四人の人物の本物と偽物の思いが錯綜する、本物か偽物か一概には言えない友情を、164分という長尺でまったく飽きさせずに描き切る。 最初から最後まで単色の分かりやすい結論へと落ち着くことなく、ずっとグラグラと揺さぶられ続けるのだ。 例えば、表面的な部分では経済格差のある夫婦の間で友情は成立するか、という問題が描かれる。 ドキュメンタリー監督の妻は、自分の撮りたい画を撮影しようと取材対象の夫婦との仲を深めようとする。そこで結ばれた友情は本物であると彼女は信じたいようだが、旦那からは「[[メソッド演技法|メソッド演技]]だ」とたしなめられるのが痛烈だ。 クライマックスはリストラされた旦那がストライキの現場で起きた出来事とそこで抱いた感情を吐露するインタビューだ。 それまでずっと伏せられてきた彼の本心が(ドキュメンタリー映画として)期待されたものから大きく距離を取る意外な内容だったこと、そのインタビューの裏で起きている情事、どれもこれも一言では表現できない複雑さを持つ。 心と身体を裸にしてさらけ出したとしても、他者に思いは伝わらないし、なんなら自分でも自分のことがよく分かっていない。それも、子供の時よりももっとずっと分からなくなっているようにすら思える。 だから人と人は分かり合えないような気がするし、一方で分かり合えない気がするような二人だからこそ長年夫婦でい続けられるのかもしれない、という逆説も描かれる。 そうした人間関係の機微だけではなく「映画を撮る映画」というメタ視点からも風刺が効いている。 ドキュメンタリー監督の妻はあくまで自分の力で映画を作ろうと自ら企画をプレゼンし、国からの助成金を受けることになる。しかし撮影スタッフは「旦那が資産家なのにそれに頼らず助成金を受けるのは、資金を理由に映画が撮れない人々に渡るはずだった金を搾取しているのではないか」と影で愚痴っていたりする。 しかし、そんな欺瞞ばかりを描くのではなく、真に善きことも描いている。 撮影対象の妻が務めるマスク会社の取材の際に、監督は「画が面白くない」とわりかし酷いことを言うのだが、それをきっかけに「労働組合を作ろう」となり、これが意外にも上手くいく。そこでのある人物のふるまいが、経営者と労働者との垣根を超えた連帯がありえるのではないかという希望をユーモラスに映している。 そして、そんな七転八倒を眺める子ども。 たまに白けたような無表情のまま顔を歪めて見せるのが、大人たちが繰り広げる滑稽さを際立たせる。 ざっと並べ立てるとそんな映画である。がんばって、なんとかひとつの単語で表現するならば、滋味深い映画である。なんともアホっぽいが、本作が画として描く複雑な感情の機微を言葉にするのは難しい。 今年もっとも描写の密度が高く、揺さぶられた映画体験だった。 ## 情報 ![[🎞️『もしもの愛』#予告編]] ![[🎞️『もしもの愛』#主要スタッフ]] ![[🎞️『もしもの愛』#関連リンク]]